若者はなぜ生きたことのない過去を「エモい」と感じるのか。

ノスタルジア──過去に思いをめぐらせ愛着や郷愁を覚える、なんともいえないあの感情

これまで、経験を重ねた年長世代ほど、過去を懐かしむ傾向にあると考えられてきた。しかし、心理学者のエンリケ・ガルシア氏によると、最近は「若い世代の間に特有のノスタルジー」が存在するらしい。

そもそもノスタルジアとは、“理想化された過去”の記憶であり、人間は特に、一部の良い時代を思い出しやすいのだそう。

この感覚を加速させたのは、スマホの登場だ。

今や誰もがスマホを所有し、ポジティブな思い出を写真として残せるようになった。画像として残されることで、理想化された過去は脳の記憶を超えるほど膨大になったのだ。

また、世界を大きく変化させたパンデミックの影響も大きいという。これまでの生活を目に見える形で変化させたパンデミックは、時代を「今」と「以前」に区別する明確なラインとなった。これが、失われた過去という意識をさらに強めたのだ。

では、これから長い人生が待ち構える若者たちは何故、経験したこともない過去にノスタルジアを感じるのだろうか。

ガルシア氏によると、若者は「不確実性の中での安心感」を求めているのだという。

雇用不安や物価の上昇、先の見えない人生への焦り……現代における様々な不安要素が、悪い生活を送っているという認識を引き起こす。これによって現代の若者は「親世代の方が、自分たちよりも安全で幸せな生活を送っていた」と考えるようになり、それが将来への意欲を失わせているのだとか。

ノスタルジアとはつまり、“黄金時代”を取り戻そうとする心情なのだ。

私たちが取り戻したいと願う「黄金時代」は、とんでもなく理想化されたもののような気がしてきませんか?

「昭和レトロ」にあこがれても、同じ時代の「太平洋戦争」を見ないふりできちゃうんだから。なんならそれすら「エモい」で片付けられちゃうみたいな。

というかそもそも、過去を懐かしまないと生きていけない現代を恐れるべきなのかも。

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