人工衛星は「木」で作れるはず。日本発、宇宙木材プロジェクトがついに本格始動

今年、日本のホオノキが宇宙開発に革命をもたらす……?

京都大学と住友林業株式会社が2020年より取り組んでいる宇宙研究開発、宇宙木材プロジェクトこと「LignoStella Project(リグノステラ・プロジェクト)」。

これは、宇宙空間における木材の可能性を明らかにすべく、世界初となる木造人工衛星を打ち上げるというもの。アルミや金属といった従来の素材概念を覆す革新的な発想として、世界的な注目を集めている。

そんな一大プロジェクトのコアとなる木材を選定するため、2022年より10ヶ月にわたって宇宙空間で木材の使用を試みる「木材宇宙暴露実験」が行われていた。

試験体として選ばれていたのは、ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3種。いずれも宇宙では安定した堅牢性を示したようで、昨年1月に地球に帰還したのち、地上で行われた強度試験や元素組成、結晶構造などの調査が加味されて最終結果が発表。

人工衛星に最適な木材として選ばれたのは、ホオノキだった。

日本では造園樹としても親しまれる本種だが、厳しい宇宙環境下で特に優れた耐久性と高い安定性を示し、人工衛星としてこれまでの素材に引けを取らない性能が期待できるのだそう。

この結果を踏まえ、2024年にJAXAとNASAが共同で打ち上げる予定の衛星「LignoSat2」の構築にはホオノキ材が使われる可能性が高い、と結論づけられた。

© kyotouniversity/Instagram

ちなみに、これだけ木材に注目が集まる背景にあるのは、宇宙開発による地球環境への影響を危惧する声が高まっている現状である。

既存の人工衛星が大気圏に突入する際、表面の燃焼によって何年も消えないアルミニウム成分が放出され、オゾン層の破壊を加速させる可能性が指摘されている。また、製造過程で排出される二酸化炭素の量も無視できない。

こうした問題を解決するにあたり、環境負荷の少ない木材の使用が世界的な注目を集めたというわけだ。

さて、世界初の“木造人工衛星”に期待が高まる一方、初めての試みとなるだけに、木材ならではの課題点も残っている模様。

プロジェクトの責任者である村田功二氏は「木材は一方向に対しては耐久性があり安定するが、他の向きに対しては寸法の変化や亀裂が生じやすいかもしれない」と改良の余地を述べている。

衛星の打ち上げを前に、研究チームはナノレベルの劣化メカニズムの調査など、更なる検証と調整を繰り返していく予定とのこと。

長きに渡って木材の活用を広げてきた日本だけに、その歴史が宇宙にも展開されていくのは嬉しい限り。

ホオノキ、そして木材は「サステナブルな衛星素材」として定着していけるか──引き続き、リグノステラ・プロジェクトに注目したい。

Top image: © 住友林業株式会社
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