「規範をぶっ壊す」女性として生まれたドラァグクィーン
やりすぎなメイクに、絢爛たる衣装、高笑いとともにステージを闊歩する、ドラァグクィーンたち。そのほとんどが、ゲイの男性だとお思いの方はきっと多いのでは?
しかし、どうやら最近業界を賑わせているのは、ゲイ男性のクィーンだけではないようです。
大注目のクィア女性ドラァグクィーン
Victoria Scone
ドラァグ・クィーンを表舞台に引き上げたといわれるのが、米国で大人気リアリティー番組『Ru Paul’s Drag Race』。その英国版に2021年、女性のクィーンが出場したことが話題になりました。
彼女は、Victoria Scone。名前からもお分かりの通り、生粋の英国人です。
『Ru Paul’s Drag Race U.K』シーズン3に出演後、クラシックなドラァグパフォーマンスとユニークなキャラクターで、またたく間に人気者に。全国ツアーでは全会場でチケットが即完するなど、今をときめく大注目のドラァグ・クィーンなんです。
クィーン“Victoria”の姿なら、
何だってできる
Victoriaは、ドラァグの姿でないときは、they/themの呼称を使うクィア女性。男性的な自分になりたいときには、ドラァグ・キングに扮するなど、ありたい自分であるために、ドラァグを活用しているようなのです。「Victoriaの姿であれば、なんでもできるような気がする」と、Victoriaは「BBC」の取材に対し答えています。
ジェンダー規範からの解放
彼女たちがクィーンに“化ける”とき
自身は、シンプルに「ドラァグ・クィーン」と呼ばれることを好んでいるようですが、Victoriaのように生まれつき女性の身体を持つドラァグ・クィーンは、一般的に「AFAB(assigned female at birth)ドラァグ・クィーン」と呼ばれます。女性がドラァグをするAFABクィーンを、「タブーだ」と批判する声もあるようですが、そんなのナンセンス。では?
そもそもドラァグとは、単に奇抜な女装をしてショーをすることではなく、ありたい自分を表現し、社会のジェンダー規範から自由になるための方法。つまり、どの性別にも開かれたものではないでしょうか。
ところで、Victoriaのほかにもう一人、AFABドラァグクィーンとして成功をおさめた人物をご紹介したいと思います。
ブルックリンを拠点に活躍するMiss Malice。ときにアンチを受けながらも10年以上にわたってドラァグ界で活躍してきた理由について、独特な解釈をしているんですよね。「The Guardian」より一部コメントを拝借してご紹介します。
「私はドラァグをすることで、女性は弱く、女らしさは軽薄で愚かなもので、まじめに相手するべきじゃないって言う世界に立ち向かうことができた。 賢い女性やフェミニストな女性は、長い爪や口紅をつけないっていう、ステレオタイプにもね」
女性の身体を持つ彼女たちが、従来の女性像から逸脱したクィーンに化ける。
うるさくて、ケバケバしくて、力強い。VictoriaやMiss Maliceのようなドラァグの存在は、女性が女性たちに押し付けられるステレオタイプを壊していく、そんな試みともいえるかもしれません。
女性なのに?いえ、女性に生まれたからこそ──既存のジェンダー規範に収まらない自分たちを、今日もドラァグで表現しつづけるのです。