死の瞬間に「生命の光」は消えるのか?科学が捉えたミステリアスな輝きの正体

まるで、SFの世界のような話だが、私たち人間を含む生物は、生きているあいだにごく微弱な光を発しているという。肉眼ではほぼ捉えられないその光は「超微弱光子放出(UPE)」と呼ばれ、生命活動と深く結びついているとされる。

それが、先月、カナダの研究チームが明らかにした「死によってその光が消滅する」という事実。このミステリアスな“生命の光”とはいったい何なのか……。

人体からも発せられる「見えざる光」
UPE現象とは?

生命の光、すなわち超微弱光子放出(UPE)は、特別な現象ではないらしい。『Newsweek』に掲載された記事によれば、カルガリー大学神経科学科のFrank van de Vosse博士らの研究チームは、このUPEが生命の基本的な特徴であり、死と共に失われることを実験で示した。

彼らの研究では、高感度な光子検出カメラを用いることで、このかすかな光を可視化することに成功している。放出される光子の数は、1平方センチメートルあたり毎秒わずか10個から1000個程度と推定されており、これは私たちの目が感知できる光のレベルをはるかに下回るもの。しかし、その存在は確かなのだとか。

研究チームがマウスで行った実験は、この現象を鮮明に示している。同記事によると、生きたマウスは明確なUPEを放出していたが、安楽死させた直後のマウスでは、体温が摂氏37度(華氏98.6度)に保たれた状態であっても、UPEの放出はほぼゼロになったという。変化は死後わずか30分以内に顕著に観察されたそうだ。このUPEは、バクテリアから植物、そして人間まで、広範な生物で見つかっているという事実は、生命の普遍的な側面を物語っているのかもしれない。

では、この光はいったいどこから来るのだろうか。現在、もっとも有力な説は、細胞内の正常な代謝プロセス、特に細胞呼吸や酸化還元反応に伴って副次的に生じるというもの。つまり、私たちが生きていることそのものが、この微弱な光の源ということになる。

あなたの「輝き」は健康のサイン?
UPEが拓く未来の可能性

UPEの発見は、単に「生物はかすかに光っている」という知的好奇心を満たすだけにとどまらない。この生命の光の強さやパターンが、私たちの健康状態やストレスレベルを反映するのではないか、という期待が高まっているからだ。

たとえば、植物の研究では、傷を負ったり病気にかかったりした部分は、健康な部分よりも強くUPEを放出することが知られている。これを人間に応用できれば、体に負担をかけない非侵襲的な方法で、病気の早期発見や健康状態のモニタリングができるようになるかもしれない。

東北大学をはじめとする国内外の研究機関では、この「バイオフォトン(生体フォトン)」と呼ばれる光の計測技術開発や、皮膚の酸化ストレス評価といった医療応用への取組みが進められている。近い将来、鏡を見るように自分の生命の光をチェックする日が来る……そんな未来も夢物語ではないのかもしれない。

さらに、UPEの消灯という現象は、「死とは何か」という古来からの問いに、新たな科学的視点を提供する可能性もある。臨死体験に関する研究は、近年、脳科学的なアプローチからも進められている。たとえば、学術誌『Resuscitation』に掲載された研究によれば、心停止から蘇生した患者の約10%から20%が、何らかの意識的な体験を報告しているという。UPEのような生命活動の根源的な指標と、死の淵での意識変容との間にどのような関連があるのか。今後の研究が待たれるところだ。

医療現場では、脳死や心停止といった「死の定義」が、技術の進歩と共に常に議論の対象となってきた。UPEの観測は、こうした議論に新たな判断材料をもたらすかもしれない。

「オーラ」との違い
科学とスピリチュアリティが交わる点

「生物が光を放つ」と聞けば、いわゆるオーラ生命エネルギーといったスピリチュアルな概念を連想する人も少なくないだろう。同記事でも、研究者たちがオーラを疑似科学として明確に区別していることに触れつつ、「それでもなお、すべての生物は文字通り光を発している」という事実は揺るがないと強調している。

科学的に観測されたUPEは、オーラとは異なる現象として捉えるべきだろう。しかし、目に見えない生命のダイナミズムが、「光」という形で観測されたことは、これまで科学の枠外で語られてきた身体観や生命観に、新たな光を当てるきっかけになるかもしれない。それは、科学とスピリチュアリティが単純に二元論で分けられるものではなく、未知の領域においては、互いに問いを投げかけ合う関係性にもなりうることを示唆している。

UPEの研究は、私たち自身の身体がいかに精巧で、そしていまだ多くの謎に満ちているかを改めて教えてくれる。この微弱な光は、生命の奥深さと、それを解き明かそうとする人間の探究心が交差する、魅力的なフロンティアなのかもしれない。

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