世界遺産やビーチリゾートだけじゃない。オーストラリアは「食」にも注目!
知っているようで、意外と知らないことの多いオーストラリアの食文化。その楽しみ方を紹介してくれたのは、俳優で世界遺産検定マイスターでもある南圭介さんと、画家/イラストレーターの山代エンナさん。
ともに、人気旅番組『朝だ!生です 旅サラダ』でレポーターを務め、仕事にプライベートにオーストラリア経験豊富。旅慣れたふたりが語る、リアルな食の魅力とは?

伝統と革新が入り混じる
多様なオーストラリアの食文化

牡蠣やロブスターをはじめとする新鮮なシーフード、ストレスフリーに育てられたオージービーフにラム、定番のフィッシュ&チップスにグルメバーガー、そして、多様なスタイルで楽しめるワイン。どれもオーストラリアグルメの代表格。でも、そこからさらに一歩踏み込んでみれば、豊かな自然と移民文化に彩られたこの国の食の豊かさに出会えるはず。
外国生まれの割合が約3割と言われるオーストラリアは、歴史的に多くの移民が、その国の食文化とともに海を渡ってきました。また、アボリジナルピープルが、何万年にもわたり伝統的に食料と医薬の両方に使用してきた「ブッシュ・タッカー(ブッシュフード)」と呼ばれるオーストラリア原産の食材(動植物)もあります。古きを守り、新しきを取り入れながら柔軟に、そして重層的に編み上げられたオーストラリアの食は、多様な文化の縮図と言えます。
では、おふたりは、どんなオーストラリアを味わってきたのでしょう?まずは、南さんに伺いました。


南圭介(以下、南):ブッシュ・タッカーを現代風にアレンジした、モダン・オーストラリアン料理に注目しています。たとえば、レモンのような柑橘の香気をもつ「レモンマートル」をロブスターのソースに仕立てたり、オーストラリアの淡水魚バラマンディを現代風にアレンジして提供したりと、ブッシュ・タッカーとの掛け合わせで生まれる革新的な料理は、歴史と寄り添いながら育まれてきた食文化だと感じます。
都市部を中心に全国各地のレストランのメニューやカクテル・リストに取り入れられ、注目度が増すブッシュ・タッカー。「フィンガーライム」をタルトなどのデザートに用いられることも多く、トラッドな料理として提供するだけでなく、味付けや調理法にもアップデートがなされているようです。

南:オーストラリアのソウルフード「ミートパイ」は、ボクの中でおにぎりのような感覚。カフェやスタンドでテイクアウトして、食べ比べにハマっています。さくさくのパイ生地の中にジューシーなひき肉、野菜、グレービーソースがぎっしり。パイを割った瞬間の香りがいいんですよね。

オーストラリアというとワインにばかり目が行きがちですが、じつはクラフトビールも個性的。なかでも、北東部の都市ケアンズの海沿いに位置する「HEMINGWAY’S BREWERY」では、世界遺産の森に育まれたクラフトビールが楽しめます。


南:デインツリー国立公園のなかにある、「モスマン渓谷」の熱帯雨林から湧き出た清流でビールを仕込む。オーストラリアのダイナミズムを感じますよね。世界遺産を細胞の内側へと直接取り込むような感覚というのかな、自然に感謝したくなりますよ。柑橘系のビールもあれば、コーヒーのような黒ビールも。ぜひ、飲み比べを楽しんでみてください。つまみは、「BBQポークリブ」一択です!
いっぽう、山代さんはメルボルンのカフェ文化から生まれたコーヒースタイルに注目。
およそ2000店がひしめくカフェ激戦区のメルボルンには、世界中からバリスタがその技術を学びに訪れるほど。イタリア系移民によって広まったエスプレッソを主流とするスタイルが特徴ですが、なかでも山代さんのおすすめは、エスプレッソにキメの細かいスチームミルクを加えた「フラットホワイト」です。


山代エンナ(以下、山代):カフェラテよりもミルクの分量が少なく、豆の旨みや個性をダイレクトに感じることができます。きめ細やかなミルクなので、コクもしっかり。浅煎りから深煎りまで、それぞれに楽しめるのもフラットホワイトの魅力です。
カフェと言えば、食事も外せません。 オーストラリアには週末カフェで家族や友人と朝食やブランチを楽しむ文化もあり、 スマッシュアボ(マッシュしたアボカド)をトーストに乗せたものやフレンチトースト、パンケーキなど、地元の人たちそれぞれにお気に入りのカフェ飯があるようです。オーガニック食材や地元で採れた食材を重視したメニューも多く、バラエティ豊富。また、多文化都市ならではの多国籍な料理も魅力です。

山代:イチオシは「ST.ALi」でいただいた「エッグベネディクト」です。コンビーフのようなお肉が添えられていて、玉子と一緒に食べると味変も楽しめます。ソテーされたリンゴと一緒に食べると、ほどよい酸味が加わるなど、満足度の高い一皿です。ここは、いま流行りの浅煎りのコーヒーがメインなんですが、抽出方法が自分で選べるので、自分だけのお気に入りの一杯を探してみるのも楽しいですよ。

オーストラリアの食体験は
ローカルの日常に溶け込んでこそ

現地のカルチャーやライフスタイルが色濃く反映されているのが、カフェやワイナリー。個人経営が多いカフェは、コーヒー豆や提供される料理はもちろん、装飾やインテリア、流れる音楽にもオーナーのこだわりを感じます。そうしたお店ごとに違う雰囲気も含めて、ローカルなカフェにどっぷり浸るのも楽しみのひとつだと山代さん。
山代:日常の延長線上にあるのが、オーストラリアのカフェ文化。カフェで思い思いの時間を過ごすローカルの人たちに溶け込むように、ゆったりと時間を楽しむようにしています。そうした現地の暮らしが垣間見えると、旅のスタイルもオーストラリアでの過ごし方も、変わってくると思いますよ。
時間をかけて作り込まれてきた文化は、コーヒーの味ひとつとっても、空間づくりにおいても、この国に暮らす人々の呼吸と重なり合って日常に溶け込んでいる。山代さんがオーストラリアのカフェ文化に惹かれる理由は、そこにあるようです。
山代:私たちの日常って、どこか忙しなく慌ただしいところがありますよね。だけど、オーストラリアに行って思うのは、日常のちょっとしたシーンに余白をつくることの重要性だったり、ひと呼吸置く時間の大切さだったり。そういうことにあらためて気付かされるんです。


西オーストラリア州マーガレット・リバーを代表するワイナリー「Voyager Estate」併設のレストランでは、ワインが主役。ペアリングもワインに合わせた感度の高い料理が提供されます。
世界屈指のワイン生産国でもあるオーストラリアには、2400軒以上ものワイナリーが各地に点在しています。ワイナリーもまた、この国ならではの食の魅力の発信地。個性豊かなワインと料理、そして都会にはないロケーションを楽しみに、週末にはオージーたちもワイナリーを訪れ、ワインテイスティングやランチなど時間をかけて楽しみます。

ワイナリーでの食体験には、さらに特別な演出があるんだとか。アーティストならではの視点で捉えたその魅力について、山代さんに聞きました。
山代:オーストラリアの人たちって、何をどういったロケーションのなかで食べるかというとこまで大切にされているんだなって、そのことをワイナリーでの食事が教えてくれた気がします。
日の入り前、空がピンクと紫に染まる貴重な時間「マジックアワー」が深く記憶に刻まれた山代さん。空の色、目の前に広がるぶどう畑、そしてテーブルにそよぐ風……それらすべてが食を彩る演出。美食だけでなく、オーストラリアの環境を味わえるのも魅力と言えるのではないでしょうか。

マジックアワーの空とオーストラリアを象徴する動植物を描いた、山代さんのイラスト。
山代:人と自然の距離感はオーストラリアならでは。自然が身近にあるということからも、「屋外で楽しむ」ことがロケーションとしても根付いているように感じます。
南:とくにテラス席の開放感は抜群。ローカルな人に混じってテラスに着けば、いつのまにかお隣の人とも会話が生まれる。人とのつながりを作ってくれる空間だと思います。
オーストラリアは、人の優しさに触れることができる場所だとも山代さん。特に思い出深いというパースでのバー巡りについて語ってくれました。


じつはオーストラリアでは、1920年代のアメリカ禁酒法時代をコンセプトにした、ユニークな隠れ家バーが大人気。ただ、路地裏やビルの一角でひっそり営業している店も多く、観光客が見つけるのは結構難しいんだそう。
山代:その日バーに居合わせた地元の人と何軒か巡って、案内してもらったのがノースブリッジの一角にある「Sneaky Tony's」です。オーストラリアの人たちは本当にフレンドリー。コミュニケーションに抵抗がなく、気さくに話しかけてくれるので、こちらもすんなり馴染むことができました。楽しいことはみんなで共有しようというマインドが根底にあるんでしょうね。
お酒を酌み交わすうちに心打ち解け、同じ時間を共有した山代さん。カフェと同じようにバーもまた、「人との繋がりをつくってくれる場所」だと確信した一期一会の出会いだったそう。それは、世界中から多様な民族と文化を受け入れてきた、“オーストラリアの素地”と呼べるものかもしれません。
贅を尽くした料理だけが、私たちの記憶に残るわけではありません。オーストラリアの活力や磁場のもつエネルギーも、そしてフレンドリーで人懐っこい人々もまた、この国の食文化を形成するエッセンスということなのでしょう。

オーストラリアの食体験は
「大阪・関西万博」でも!


パビリオン内に広がるユーカリの森には、6種類のオーストラリア固有の動物が隠れています。鳴き声をヒントに探してみて。

天井まで覆い尽くしたスクリーンでは、オーストラリアの自然の源である「海の世界」を表現した映像ショーが。
おふたりが語ってくれた食の魅力に加えて、オーストラリアを彩る美しい自然と多様な文化を、「大阪・関西万博」のパビリオンで追体験してみませんか?
『Chasing the Sun ― 太陽の大地へ』をテーマに、太陽を追ってオーストラリアを横断し、新たなオーストラリアの一面を発見する没入型アドベンチャーが楽しめるほか、さまざまな文化プログラムを通して、オーストラリアの価値観に触れることができます。


展示を見学した後は、ぜひパビリオン併設の「カフェKOKO」へ。人気メニューのオージービーフがたっぷり詰まった「ミートパイ」や「オーストラリア産牛肉ブリスケットバーガー」はもちろん、発酵調味料ベジマイトを使った「ベジマイトとハムのトーストサンド」といった、オーストラリアならではの味覚にトライしてみては。
「パイ生地を割った瞬間、キュランダのパノラマが頭に浮かんだ」と、南さんが太鼓判を押す「ミートパイ」も外せません。サクサク生地にしっとりしたお肉のコンビネーションを、ぜひオーストラリアビールとともに。食後は、山代さんおすすめの「フラットホワイト」を。キューブ状にカットした伝統のスイーツ「ラミントン」と合わせ、のんびりカフェ気分を楽しむのもおすすめです。

オーストラリア旅行は
「食」を目的にしてもいい!
その土地で大切に育てられたものを、その土地の景色を楽しみながらいただく。「食」という切り口ひとつとっても、オーストラリアという国の懐の深さに気づかされます。
「空間そのものを楽しんでほしい」と、ふたりが口を揃えるように、何を食べるかということに加え、どんなロケーションで、どんな雰囲気のなかで味わうかということにも気を回してみてください。そこに漂う空気や流れる時間を、いかにエッセンスとして取り込めるか。オーストラリアの食を存分に堪能するコツは、きっとそこにあるはずです。
オーストラリアといえば、世界遺産やビーチリゾートを思い浮かべる人が多いと思いますが、魅力的な食文化体験を目的にするのもオススメですよ。
