トドは人の真似ができる!城崎マリンワールドと麻布大学が世界で初めて証明

これまで一部の哺乳類に限られると考えられてきた高度な認知能力が、意外な動物にも備わっている可能性が示された。

兵庫県豊岡市にある城崎マリンワールドのトドが、人の動作を正確に模倣できることを、麻布大学との共同研究チームが世界で初めて証明したという。

この画期的な研究成果は、動物の知性に対する我々の理解を、また一歩先へと進めるものかもしれない。

トドの「ハマ」が見せた驚異の学習能力

今回の研究で主役となったのは、城崎マリンワールドで飼育されている雌のトド「ハマ」。

研究チームは「Do as I do(私のマネをして)」と呼ばれるトレーニング手法を用い、ハマが人の動きを真似る能力を持つかを検証した。

この研究成果をまとめた論文は、2度の不採択を乗り越え、国際的な学術専門誌『Animal Cognition』に掲載された。

これまで人の動きを模倣できるとされてきたのは、鯨類や大型類人猿、犬や猫といったごく限られた動物のみ。アシカやアザラシなどが含まれる鰭脚類(ひれあしるい)でこの能力が確認されたのは、世界で初めての報告となる。

「真似る」というルールを理解するまで

実験は、まずハマに「トレーナーの動きを真似する」というルールそのものを学習させることから始まったようだ。具体的には、「トレーナーが立ち上がる」「舌を出す」「首を横に振る」という3種類の基本動作を使用。

トレーナーが動いた後にハマが同じ動作をするよう、最初はジェスチャーなどのヒントを与えながら練習を重ね、最終的にはヒントなしで模倣できるようになったという。

ビデオ1:3つの動作で練習する様子

城崎マリンワールド 公式/YouTube

このトレーニングの目的は、個別の動作を覚えさせることではない。あくまで「相手の動きを見て、それを真似る」という抽象的なルールを理解させる点にあった。

そして、ハマがそのルールを本当に理解しているかを確かめるため、研究チームはこれまで模倣練習に使ったことのない動作でテストを実施した。その結果、ハマはトレーナーの動きを即座に、そして正確に真似てみせたとのこと。

ビデオ2:未練習の動作を模倣する様子

城崎マリンワールド 公式/YouTube

ビデオ3:全く新しい動作の模倣に成功

城崎マリンワールド 公式/YouTube

記憶を伴う「真の模倣」能力を証明

この研究の特筆すべき点は、模倣の精度だけではない。

ハマは、これまで一度も教わったことのない全く新しい動作の模倣に成功したほか、トレーナーの動作が終わってから少し時間を置いて模倣するという、より高度な課題もクリアした。

後者の課題は、見た動作を一度記憶し、頭の中でイメージを保持した上で再現する能力が求められる。これは人間の模倣にも近い「真の模倣」と呼ばれるもので、ハマが非常に高い認知機能を持つことを示唆するものだ。

ビデオ4:終了後に模倣するテストの様子

城崎マリンワールド 公式/YouTube

さらに、研究チームは実験の信頼性を高めるため、トレーナーとハマの間にパーテーションを設置し、目線などのヒントが伝わらない状況でもテストを実施。

ハマはこうした厳しい条件下でも正確に動作を模倣し、その能力が本物であることを疑いのない形で証明したのだそう。

ビデオ5:パーテーションを挟んでのトレーニング

城崎マリンワールド 公式/YouTube

 ビデオ6:パーテーション使用時の模倣テスト

城崎マリンワールド 公式/YouTube

動物認知研究の新たな地平

今回の発見は、これまで人間特有とさえ考えられてきた高次の認知能力が、鰭脚類という分類群にも広く存在する可能性を示している。

異種の動きを観察し、記憶し、そして正確に再現する。トドのハマが見せたこの能力は、動物たちが持つ知性の奥深さを改めて私たちに教えてくれる。

この一頭のトドが、今後の動物認知研究に新たな扉を開いたのかもしれない。

研究の対象となったトドのハマ(♀)© 日和山観光株式会社
Top image: © 日和山観光株式会社
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。