砂糖もミルクもいらない。「塩コーヒー」が世界でブームに

砂糖やクリームに頼ることなく、いつものコーヒーの味を劇的に変えるかもしれない、そんな驚きのコーヒーハックが話題を呼んでいます。

コーヒーに「塩」を加えるという、オドロキの方法。

しかし、この伝統的な方法は、苦味を抑え、コーヒー本来の風味を引き出すとして、世界中で再注目されているんです。

コーヒーの苦味を抑えるために塩を使うというアイデアは、多くの人にとって新しいかもしれません。でも、実は古くからトルコ、ベトナム、台湾などで実践されてきた伝統的な方法。

この方法が再び人気を集めているのは、塩が持つ風味のバランスを整える力にあります。専門家によると、少量の塩を加えることで、コーヒーの苦味を和らげ、本来の甘みや風味を引き出すことができると「Fox News」は伝えています。

食品科学コンサルタントのエド・マコーミック氏によれば、塩（ナトリウムイオン）はコーヒーに含まれる苦味成分──キニーネ様化合物──を抑制し、特に深煎りコーヒーの風味バランスを改善すると言います。

これは味覚受容体が塩に反応することで起こる現象で、砂糖やクリームのように味を「隠す」のではなく、コーヒー本来の味を際立たせるのが特徴。

2度の米国バリスタチャンピオン、ヘザー・ペリー氏も同様に、少量の塩が味覚受容体に作用し、脳に「苦味が少ない」と信号を送ると指摘。ただし、豆本来の個性を最大限に生かしたい高品質なコーヒーでは、塩の使用がかえって風味を損なう場合もあると注意を促しています。

このトレンドは味の変化だけでなく、健康面からも注目を集めています。管理栄養士のジャネル・ボバー氏によると、塩はカロリーや脂肪分を加えずに風味を高めるため、砂糖やクリームの摂取を減らしたい人にとっては有効な選択肢だと提言。

ただし、塩を加えることで水分補給に効果があるという主張は「希望的観測」に過ぎず、コーヒーの利尿作用を打ち消すほどの影響はないとのこと。また、高血圧や腎臓病のある人は、塩分摂取を控えるべきだとしています。

塩をコーヒーに加える習慣は、アメリカだけのものではありません。トルコでは、結婚式の儀式でコーヒーに塩を加える象徴的な習慣があります。

ベトナムで人気の「カフェー・ムオイ」（塩コーヒー）は、エスプレッソに練乳と塩味のクリームをトッピングしたものです。台湾でも、「シーソルトコーヒー」はカフェで人気のメニューとなっています。

現在このトレンドは、高級カフェにも波及。ニューヨークの「Maman」では、自家製飲料シロップに塩を使用しており、その「ソルティ・タヒニラテ」は、塩が風味を引き立てる効果を証明する一例。

飲料ディレクターのケイトリン・バーク氏は、塩を加えることでコーヒーの風味がより豊かに、そして強調されると説明しています。彼女は、高品質なフルールドセル（塩の花）の使用を推奨しており、このトレンドが一時的なものではなく、塩の持つ普遍的な魅力によって定着する可能性を示唆しているのではないでしょうか。

コーヒーに塩を加えるという一見斬新なトレンドは、実は失われつつあった食の知恵を再発見する動きと捉えることができます。

現代社会では、手軽さや新しい味覚体験を追求するあまり、古くから伝わる食の工夫が見過ごされがち。しかし、塩が持つ味の調和や風味増強といった基本的な機能は、科学的にも証明されており、世代を超えて受け継がれてきた食文化の奥深さを示唆しています。

そう考えると、同トレンドは単なるコーヒーの飲み方にとどまらず、私たちが日常的に口にするものに対して、より深く、歴史的な視点から向き合うきっかけを与えてくれ流ようにも思えてきます。

「塩コーヒー」の広がりは、食のパーソナライズ化の象徴。砂糖や乳製品を使わず、塩というシンプルな要素で味を調整できる──その事実は、健康的で多様な食の在り方を示しています。

また、限られた食材の新しい使い方を見出すことは、サステナブルな食文化にもつながります。伝統的な知恵を現代のライフスタイルに再解釈していく姿勢こそ、これからの「食の進化」の鍵になるでしょう。