柳澤秀吉、潮紗理菜、1tappy。3つの視点が描いた“お酒との関係の再設計”

11月16日、池尻大橋のBPMでお酒との付き合い方を考えるイベント「My Design Drinking」が開催されました。
フードペアリングやワークショップを通じて、「スマートドリンキング」をさらに発展させた“デザインドリンキング”──飲んでも飲まなくても自分らしさを表現できる飲み方──を探る内容です。

当日は東京大学教授の柳澤秀吉さん、元日向坂46の潮紗理菜さん、eスポーツプレーヤーの1tappyさんが登壇し、参加者とともに体験を共有。学術・ライフスタイル・カルチャーと異なる背景を持つ3人が、イベントを通じて見出した“お酒との新しい関係”とは何だったのでしょうか。

知っているようでじつは知らない
自分とお酒の本当の関係

——まず、普段のみなさんはどんなお酒との付き合い方を実践しているのでしょうか。

 

1tappyさん:そもそも僕はあまりお酒を飲めるほうではないんです。お酒を飲むことは飲むけれどすぐ寝てしまうし、今日やった簡易的なテストの「アルコール体質試験パッチ」も赤く反応が出たので、あまり飲めないタイプという判定でした。それもあってトークセッションで潮さんがおっしゃっていた「飲み会に参加する時は聞き役に回ったりする」という立ち回り方は勉強になりました。

潮紗理菜さん(以下、潮):逆に私は大学時代にアルコール体質試験パッチをやった時に真っ赤になったのでまったく飲めないと思っていたら、意外と赤くなり過ぎず「自分が思っていたより飲めるのかな」と驚きました。

柳澤秀吉さん(以下、柳澤):私は飲めるほうだと思っていたら赤くなったので、意外とあまり飲めないんだ、と。トークセッションに先駆けたQ&Aでも「お酒に関する体質は変わらない」と解説されていたので年齢や暮らし方とは関係ない。ということはつまり、意外とみんな自分の体質のことを理解していないんだ、と気づかされました。

——1tappyさんは実際の体質と自身の認識が一致していましたが、普段はお酒の飲み方でどのようなことを心がけていますか?

 

1tappy:僕は基本的に食事がメインだと考えているので、ひとりで飲むことは無いですね。お酒を飲まない友だちと会う時は焼肉屋や居酒屋に行ってもソフトドリンクで通すことも多いですし、お酒が好きな人と会う時は自分の飲める範囲で飲みます。

:私も“ひとり飲み”はしたことがありません。友人とご飯屋さんに行っても会話がメインで、お酒を飲むのはコミュニケーションに深みを持たせるため。お酒メインの飲み方はしてきませんでした。

 

——潮さんは成人してからずっとお酒を飲んだことがなかったそうですが、24歳ではじめて飲んだ理由は?

 

:「この人とならお酒を飲んでも大丈夫」と、心から信頼できるお友だちができたのが大きいですね。安心して自分を出せる人と出会えたので、試してみたいと思うようになりました。お酒があることで生まれるコミュニケーションを知ってからは、さまざまな場面でお酒を嗜むことも増えて、最近はやっと自分らしい飲み方ができるようになったと思っています。

柳澤:お二人もそうですし、参加者はとても真剣にお酒との付き合い方を考えているのが印象的でした。私が20代の頃は「アルハラ」といった考えも普及していなかったので、飲み会はお酒を飲む場所というのが当たり前。振り返ってみれば自分や誰かに負担をかけていたこともあったはず。そういう時代も経験しているので、お酒との付き合い方をしっかり考える機会があったのは素晴らしいと思います。

それぞれが感じた
“新しいノミカタ”の可能性

——皆さんは異なる分野で活躍されていますが、お酒に対する捉え方もひとりずつ違います。「My Design Drinking」のオファーを受けた時にどう感じましたか?

 

:私は「飲めないタイプだから、できるだけお酒の場には参加しない」と思っていましたし、これまでお酒との付き合い方についてちゃんと考える機会はありませんでした。でも「自分らしい飲み方をデザインする」というように発想を変えれば、飲める人も飲めない人もみんなが参加できる文化をみんなで考えて作ることができる。それはすごく素敵なことだと思いました。

柳澤:自分の研究(感性設計学)をお酒に当てはめて考えるのは初めてだったので新鮮でした。お酒には実利的な価値だけでなく、人と人との繋がりといった認識的な価値を生み出すものでもあるという気づきもあった。そうやって客観的に考えていくと、新しいお酒との付き合い方が見えてくるように思います。

1tappy:トークセッションで教授が発表されていたなかで「適度な刺激、つまり適量の飲酒によって価値を最大化できる」という考えは、自分もすごく納得できました。人によって価値が最大化する刺激の量は異なる。だからこそ他人に流されないことが大事ですし、よく言われるような「自分の飲酒の限界量を知っておく」のではなくて「自分にとってベストな飲酒の量を知っておく」ことが大事なんだろうな。

柳澤:そうですね。付け加えると自分に必要な刺激の量も知るべきだけど、一緒に飲む人の刺激の量も気配りできると、コミュニティのなかの価値を最大化できると思います。

「飲まない自由」も「飲む楽しみ」も
どちらもデザインできる

——トークセッションだけでなく実際にワークショップを経験して、いかがでしたか?

 

柳澤:お酒を飲むことが目的なのか、それ以外を目的にお酒を飲むのかというのを自覚させる構成になっていて面白かったですね。それに自分も共感できる飲み方をしている人が多かったけれど、普段は飲まない人のなかに「ストレスが溜まった時に飲む」という人がいたのが意外でした。飲まないタイプでもそういう人がいるんだ、と。

:私のグループにもいました。それから「どれだけでも飲めるし飲む時はたくさん飲むけど、月イチくらいのペースだから大丈夫」という人も。それは「大丈夫?さすがにその飲み方は……」と、心配してしまいました。

1tappy:僕のグループは世代が一緒だったからか、お酒に対する考え方は「無理して飲まなくていいよね」という感じで安心しました。ただ「安心できるから家で飲む」という人もいれば、なかには「すぐ寝てしまうから家では飲まない」という人もいた。人によってお酒との心地よい付き合い方は違うんだな、と実感しました。

:自分のお酒との関係も意外にズレがあったりすることがわかりましたが、それ以上に他の人のお酒との付き合い方って気にしていなかったな、と感じます。ワークショップの時にお酒を1杯飲んだら次はソフトドリンクを頼むように心がけている人がいたり、本当は30分に1杯飲みたいけれど意識的に1時間に1杯にして、そのぶんお酒を味わって飲むことを心がけたり……。そうやって自分らしい付き合い方を持っている人は素敵だと思います。

柳澤:アルコール飲料とノンアルコールやローアルコールの飲料を組み合わせて楽しむ“ハイブリッド飲み”は実際に自分がやっていることだったのですが、意外と参加者の人たちも実践している方もいて「自分だけじゃなかったんだ」と嬉しい気持ちになりましたね。

:人とのコミュニケーションを楽しむことやお酒のストーリーを楽しむことなど、お酒のいいとこ取りができつつデメリットを減らせますし、私もこれから実践したいと思いました。

皆が参加したくなる飲み会から
新しい出会いやアイデアは誕生する

——ワークショップ中に「ノンアルコール飲料の選択肢が豊富な飲食店は“当たり”なことが多いので、飲み会でそういうお店だと嬉しい」という声もありました。

 

1tappy:そうかもしれませんね。フードペアリングのワークショップで今は「カシスオレンジ」のノンアルコール飲料があることも知って驚きました。お酒に近い風味ですし、あれなら「お酒を一緒に飲んでる」という雰囲気を共有できる。

:私は3%のカシスオレンジとハイボールのローアルコール飲料を飲みましたが、教授と「いけるね」「美味しい!」と盛り上がりました。

1tappy:グループのなかに「ローアルコールなら飲み会をもっと長く楽しめるし、コミュニケーションもグダグダになりづらいのでありがたい」という人もいました。

:いまはノンアルコールやローアルコールの飲み物も豊富なので、それらを組み合わせていけば、あまりお酒が得意ではない人でも飲み会を楽しめますし、私もこれまでのように「飲み会はちょっと……」と思わずに、もっと積極的に参加してもいいんだと思いました。ただ、飲食店だとメニューにアルコール度数を書いてないことが多いので、そこがいつも不安なんです。そのあたりも変わっていくといいですね。

柳澤:潮さんのお話で面白いなと思ったのは「飲み会は断るけれど、お食事会なら都合がつけば行きたいと思う」ということ。どちらも食事にお酒が伴うことも多いけれど、言葉ひとつで参加するかしないかが変わってきたりする。

:考えてみればそうですよね。お食事会と言って集まって居酒屋に行くこともあるけれど、最初に飲み会と言われると躊躇したりする。

柳澤:どちらも本来は飲酒自体が目的ではなくて会話が目的のはずだけど、いまだに「飲み会」という言葉を使う。スマートドリンキングが当たり前の社会になるためには「飲み会」に替わる新しい言葉の考案が必要かもしれませんね。

「デザインドリンキング」は
選択の自由から生まれる新しいカルチャー

飲む人も飲まない人もどちらも尊重される社会を作るためには、まずそれぞれが自分らしいノミカタをデザインし、実践していくことが必要です。

飲む人も飲めない人も、そして飲めるけど飲まない人も、それぞれが「今どうお酒と付き合うことがベストか」を考えるのがデザインドリンキング。これから年末になるに従って忘年会や新年会などお酒を飲む機会は増えるものですから、これまでのお酒との付き合い方を振り返ってこれからをデザインしてみれば、少し視野を少し拡げるきっかけになるかもしれません。

柳澤秀吉さん

東京大学大学院工学系研究科教授。専門は、感性設計学、デザイン学、設計工学、計算論的神経科学。脳の情報論にもとづく感性の数理モデル化とデザインへの応用を研究している。日本感性工学会副会長、日本デザイン学会理事。TEDxなどの一般向け講演も行なっている。

潮紗理菜さん

元日向坂46メンバー。幼少期を過ごしたインドネシア由来のサリマカシーという愛称で親しまれ、独自の世界観で、ラジオパーソナリティなど、言葉を大切にした活動を中心に幅広く活躍。

1tappyさん

Reject所属ストリーマー。大人気eスポーツタイトルApex Legends競技シーンにおいて、国内外の大会で数々の好成績を残してきた元プロプレイヤーとして、Z世代を代表するカルチャーの最前線に立つ。