話し声で「ととのえない」悩みを解決する、没入型温浴デバイス

サウナブームの裏側で、多くの愛好家がひそかに抱えていた悩み——「他人の話し声が気になって、ととのえない」。学生起業家・伊藤麗生氏が手がける没入型温浴デバイス『YUNOISE』が、CAMPFIREでのクラウドファンディング開始からわずか20日で目標金額の約88%を達成し、その切実なニーズの存在を証明しつつあります。

「ととのい」を阻む意外な敵

サウナ→水風呂→外気浴。この黄金サイクルを経て訪れる、あの深い恍惚感を「ととのい」と呼ぶようになって久しいですが、近年のサウナ人口の急増は、思わぬ副作用をもたらしました。大浴場やサウナ室内に響く会話、水風呂での雑談、外気浴スペースでのスマホの通知音——。せっかく身体が「ととのい」に向かっているのに、聴覚からの情報が脳をリセットしてしまう。そんな経験、サウナ好きの方なら一度はあるのではないでしょうか。

実はこの「温浴空間における音環境」の問題は、日本だけの話ではありません。グローバルなウェルネス業界でも、スパやサウナ施設の設計において「音響ゾーニング(acoustic zoning)」——つまり空間ごとに音環境を意図的にコントロールする手法——が2026年の重要トレンドとして注目されています。施設側が建築レベルで取り組み始めている課題を、個人の手元で解決しようとするのがYUNOISEのアプローチです。

スマホを「持ち込まない」という設計思想

YUNOISEの特徴を見ていくと、単なる防水イヤホンとは明確に一線を画していることがわかります。

同デバイスはIPX8の完全防水性能と耐熱60℃の設計を備え、水風呂や外気浴中でも使用可能とのこと。ただし、高温のサウナ室内(通常80〜100℃)での使用は想定されておらず、あくまで「ととのい」のクライマックスである外気浴や水風呂のタイミングに特化しています。本体重量は約30gと軽量で、4種のイヤーピースが付属するため、フィット感の調整もしやすそうです。

とりわけ興味深いのは、Bluetooth接続ではなくメモリ内蔵型(MP3)を採用している点でしょう。スマートフォンとの接続が不要なため、LINEの通知やSNSの誘惑から完全に切り離された状態を作り出せます。世界的にも「アナログ・ウェルネス」——デジタルデバイスから意図的に距離を置くことで心身の回復を促す考え方——が広がりを見せるなか、「テクノロジーを使ってデジタルデトックスを実現する」という逆説的なコンセプトは、なかなか鮮やかです。

さらに、プリインストールされた「ととのい専用音源」は、安静時の心拍数に近いテンポと自然界の周波数をブレンドしたもので、副交感神経への切り替えをサポートする設計になっているといいます。物理的な遮音と、科学的にデザインされた音の両面から「聴覚的な個室」を作り出す——。共有空間にいながら、自分だけの静寂を手に入れるという発想は、サウナに限らず、さまざまなシーンに応用できる可能性を感じさせます。

仮説検証としてのクラファン

今回のクラウドファンディングについて、同社は「仮説検証の場」と明確に位置づけています。初期支援者(アーリーアダプター)から実際の温浴環境での使用感についてフィードバックを収集し、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)——つまり「この製品が本当に市場に求められているか」の確認——を目指すとのこと。

支援総額444,000円、目標達成率約88%という数字は、大型プロジェクトと比べれば控えめかもしれません。しかし、「静かにととのいたい」という、これまで言語化されにくかったニーズに対して、実際にお金を払う人がこれだけいるという事実は、小さくない意味を持っています。

伊藤氏は学生起業家でありながら、デバイス開発と並行して静岡県浜松市でリアルなサウナ施設も展開しています。大自然に囲まれた完全貸切の「滝沢サウナ」に加え、2026年4月にはパブリック型の「鷲沢サウナ」もオープン。ハードウェア(施設)とソフトウェア(デバイス)の両輪で「ととのい体験」を設計しようとする姿勢は、単なるガジェット開発にとどまらないビジョンの広がりを感じさせます。

「共有」と「個」の新しい共存

グローバルなサウナ市場は年平均7%を超える成長率で拡大を続けており、新設されるサウナの3割以上がスマートテクノロジーやサウンドシステムを統合した設計を採用しているというデータもあります。「温度と時間」だけで語られてきたサウナ体験が、「音」や「光」を含む総合的な没入体験へと進化しつつあるのは、世界的な潮流と言えるでしょう。

YUNOISEが投げかけているのは、「共有空間の中に、個人の静寂を持ち込む権利」という問いかけです。サウナは本来、裸で同じ空間を共有するという、ある種の親密さを前提とした文化。そこに「自分だけの音の繭」を持ち込むことに、違和感を覚える人もいるかもしれません。

けれど、考えてみれば、電車の中でイヤホンをするのと本質的には同じこと。共有空間にいながら、自分の内側に潜る自由を確保する——それは、他者を排除するのではなく、自分自身との対話を大切にするための選択ではないでしょうか。

一般販売予定価格は18,000円、クラウドファンディングの超早割は13,500円(25%OFF)から。製品の発送は2026年9月を予定しています。代表の伊藤氏が掲げる「誰もが日常の余白を取り戻す『WELL-BEING』を届けたい」というビジョンが、どこまで広がっていくのか。まずはこの夏以降、実際に湯船や外気浴で使った人たちの声が届くのを楽しみに待ちたいと思います。

YUNOISE プロジェクト概要

【プロジェクトページ】https://camp-fire.jp/projects/920227/view
【実施期間】2026年3月28日(開始日) 〜 5月24日(終了日)
【主なリターン】YUNOISE本体(超早割)、滝沢サウナ貸切チケット、鷲沢サウナ体験チケット など

Top image: © YUNOISE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。