値上げ時代の新しい消費感覚。「安さ」より“配分”で選ぶミレニアル世代
カナダ発のAIリサーチ企業Cashew Researchが、北米のミレニアル世代783名を対象に実施した食料品買い物行動の調査結果を発表しました。そこから浮かび上がったのは、「我慢して切り詰める」のではなく、まるでチェスのように一手一手を計算しながら買い物を最適化していく、したたかな消費者像です。
自炊増加の裏にある「攻め」の姿勢
物価が上がれば、まず食費を削る——。多くの人がそう考えるかもしれません。実際、同調査ではミレニアル世代の68%が1年前と比べて自宅での調理頻度を増やしたと回答しており、そのうち56%が節約を主な理由に挙げています。
ただし、ここで注目すべきは「自炊が増えた」という表面的な事実ではなく、その背後にある意識の変化でしょう。Cashew ResearchのCEO、Addy Graves氏は「プレッシャーを受けた世代が、素早くソリューションモードに移行した姿だ」とコメントしています。つまり、インフレに追い込まれて仕方なく自炊しているのではなく、コントロールを取り戻すための能動的な選択として自炊を位置づけているということです。
この感覚、日本で暮らす私たちにも心当たりがあるのではないでしょうか。値上げラッシュが続くなかで、ただ安いものを選ぶのではなく、「どこにお金をかけて、どこを抑えるか」を自分で設計する。そんな意識が、世代を超えて広がりつつあるように感じます。
「奮発」と「節約」を使い分ける技術
同調査で特に興味深いのは、ミレニアル世代の59%が「カテゴリーごとに意図的に奮発する部分と節約する部分を使い分けている」と答えた点です。
たとえば、コーヒー豆にはこだわりたいけれど、洗剤はプライベートブランドで十分。オーガニックの野菜は譲れないけれど、お菓子はセール品で構わない。こうした「選択的消費」は、全体の支出額を抑えながらも、自分にとって大切な領域の満足度は下げないという、きわめて合理的な戦略といえます。
彼らは複数の店舗を横断し、クーポンやロイヤルティアプリ、セール情報を組み合わせて一回一回の買い物を最適化しているとのこと。もはや「どの店が安いか」ではなく、「どの店のどのカテゴリーが、今の自分の優先順位に合っているか」で判断しているわけです。
これは単なる節約術ではありません。限られた予算のなかで、自分の価値観に沿った配分を自ら設計する行為——いわば「家計のポートフォリオ管理」に近い発想です。
SNSが「発見の入り口」になる時代
もうひとつ見逃せないデータがあります。ミレニアル世代の78%が「ソーシャルメディアで見たことをきっかけに特定の食品を購入した経験がある」と回答しているのです。
節約志向が強まっているにもかかわらず、新しい商品やトレンドへの感度はむしろ高い。この一見矛盾するような行動は、「コストを管理しながらも、食の楽しみや発見は手放さない」という姿勢の表れではないでしょうか。SNSのレシピ動画や食品レビューが、新たな購買の入り口として機能している現実が、数字からもはっきりと見えてきます。
「賢い消費」が当たり前になる未来
同レポートは、ミレニアル世代の買い物行動を「Grocery Chess(食料品チェス)」と名づけました。リサーチし、比較し、正しい選択をしたいという欲求が、ときに購買までの時間を長くすることがあっても、熟慮された判断が優先される——。それが彼らのスタイルだと結論づけています。
物価上昇は確かに家計への圧力です。しかし、その圧力が消費者を「後退」させるのではなく、「よりスマートに」させているとしたら、それはある意味で希望のある話かもしれません。
日本でも、ポイント経済圏の活用やふるさと納税、キャッシュレス決済の使い分けなど、買い物を「戦略的にデザインする」動きは年々加速しています。我慢ではなく、工夫で乗り越える。そんな消費のあり方が、これからのスタンダードになっていくのかもしれません。






