大学生が開発、「クマ情報」を5秒で届けるアプリ

国際教養大学の4年生が立ち上げたスタートアップ「BearBell」が、クマの目撃情報を共有するアプリ「クマップ」を北海道・東北6県で正式リリース。

行政の対応を待つのではなく、住民同士が「投稿から5秒以内」に危険を知らせ合う──その設計思想の背景には、開発者自身の切実な原体験がありました。

危険なのは、クマより"情報の遅さ"だった

代表の服部悠大氏は、人生で6回クマに遭遇し、うち2回は命の危険を感じたといいます。

決定的だったのは2022年10月の出来事。大学の正面玄関にクマが現れたにもかかわらず、土曜日だったために事務局の対応は3日後の月曜日。命に関わる情報が、曜日ひとつで止まってしまう。その怒りにも似た危機感が、クマップの出発点になりました。

環境省の統計によれば、令和5年度のクマによる人身被害は過去最多の219件。被害は年々深刻化しているのに、情報が届く速度は依然として「数時間から数日」の世界にとどまっています。行政が怠慢なのではなく、構造的に即時対応が難しい。ならば住民同士で補完できないか──クマップはその問いに対する、ひとつの回答です。

「誰かが見た」だけでは信じない設計

クマップの信頼度スコア画面。投稿写真をAIが解析し、ツキノワグマを95%の確信度で検出。総合信頼度スコアは55/100(中)と表示されている
© 株式会社BearBell

住民投稿型のサービスと聞くと、真っ先に気になるのは情報の信頼性でしょう。SNSでの目撃情報が拡散されるたびに、誤報やデマの問題がつきまといます。クマップが面白いのは、この懸念に正面から向き合っている点です。

通知を増やすのではなく
減らすことで命を守る

通知の設計にも、よく考えられた思想があります。自宅や職場など複数のスポットを登録し、それぞれに通知を受け取る距離を設定できる。自宅周囲500m、職場周囲1,000mといった具合です。

防災アプリにありがちな「通知が多すぎて結局オフにする」問題を、最初から織り込んでいる。本当に必要な情報だけを届けるために、あえて絞る。この設計は、2026年6月に秋田市で行われた実証実験のフィードバックからも磨かれたものだそうです。実証期間中には実際に大学敷地内での目撃情報が投稿され、周辺の利用者に即座に通知が届く場面もあったとのこと。

技術面では、東証グロース市場上場のグロースエクスパートナーズが画像認識やUI/UX基盤で参画しており、学生スタートアップと上場企業の協業という体制も興味深いところです。アプリはiOS・Android両対応で完全無料。有料機能もありません。

都市部でもイノシシやサルの出没ニュースが珍しくなくなった今、「野生動物との遭遇」は山間部だけの話ではなくなりつつあります。行政の情報が届くのを待つのか、それとも隣人と5秒で共有するのか。クマップが問いかけているのは、「安全の主語は誰なのか」という、もう少し大きな話なのかもしれません。

Top image: © 株式会社BearBell
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。