「強いリーダー」の常識を変えた。ジャシンダ・アーダーンが貫いたKINDNESS
河出書房新社から、ニュージーランド元首相ジャシンダ・アーダーンの回顧録『KINDNESS(カインドネス) 思いやりと優しさで世界を変える』の日本語版が刊行されました。
37歳で世界最年少の首相に就任し、テロやパンデミックの最前線に立ち続けた彼女が、退任後に綴った528ページ。その軸にあるのは「強さ」ではなく「思いやり」でした。
涙が乾く前に銃規制法を通した
「感情」と「決断」は矛盾しない
リーダーに求められる資質と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。決断力、カリスマ性、ときには冷徹さ——。少なくとも「繊細さ」や「泣き虫」は、多くの人のリストには入らないはずです。
アーダーン氏は、まさにその「リストに入らない側」の人でした。2019年、ニュージーランドのクライストチャーチのモスク(イスラム教の礼拝所)で51人が犠牲になった銃乱射事件が起きたとき、彼女はヒジャブをまとって遺族を抱きしめ、涙を流しました。
そして、その涙が乾く前に銃規制法の改正を主導しています。事件からわずか数週間で法案を成立させたスピードは、世界中のメディアから驚きをもって報じられました。
感情を見せることと、決断を下すこと。この二つは矛盾しない——彼女の行動は、それを証明するケーススタディそのものだったのです。
「力が残っていない」と言えるリーダー
2020年の新型コロナウイルス対策でも、アーダーン氏は迅速な水際対策とロックダウンを実施し、ドイツのメルケル首相や台湾の蔡英文総統らとともに高い評価を受けました。
しかし本書で最も印象的なのは、むしろ2023年の辞任の場面かもしれません。42歳の彼女は「もはや職務を全うするだけの力が残っていない」と率直に語り、自ら退きました。
議員としての最後の演説では、「繊細で心配性でも」「母親でも泣き虫でも」国を率いることができると語っています。この言葉は、政治の世界だけでなく、あらゆる組織で「強くあらねば」と自分を追い込んでいる人の胸に刺さるのではないでしょうか。
「優しすぎる」と言われた人へ
思いやりを力に変える視座
日本語版の解説を担当したのは、政治学者で上智大学教授の三浦まり氏。著書『さらば、男性政治』で日本の政治における男性中心構造を論じてきた研究者です。
三浦氏の解説タイトルは「〈権力/力〉は誰のために?」。この問いは、政治家だけに向けられたものではないでしょう。
職場で「もっとタフにならないと」と言われたことがある人。家庭で「優しすぎる」と指摘された経験がある人。そんな日常のなかで、思いやりを「弱さ」ではなく「力」として再定義する視座を、この回顧録は手渡してくれます。
原書は2025年に刊行され、『ニューヨーク・タイムズ』と『サンデー・タイムズ』の両方でベストセラーに。俳優のナタリー・ポートマンは「人間性を重んじるリーダーシップの根底を垣間見せる貴重な一冊」と評しています。
「思いやりには、この地球上のどんなものにも勝る力と強さが宿っている」——本書のこの一節が、読後にどう響くか。それはきっと、あなた自身の「強さ」の定義によって変わるはずです。

『KINDNESS(カインドネス) 思いやりと優しさで世界を変える』
【著者】ジャシンダ・アーダーン
【翻訳】神崎朗子
【解説】三浦まり
【出版社】河出書房新社
【発売日】2026年7月28日
【価格】3,960円(税込)
【仕様】46判・ハードカバー・528頁(口絵8頁)
【電子書籍】同日発売
【公式サイト】https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309209500/






