SNSがつまらなくなったと感じる理由「プラットフォーム・ナルシシズム」の正体
「最近のInstagram、なんか使いにくくなったよね」。そんな会話、一度はしたことがあるのではないでしょうか。でも、もしその感覚がプラットフォームの問題ではなく、自分自身の立ち位置の変化だとしたら?
「劣化」の正体は、
データが語るものと違っていた
2022年、作家のCory Doctorowが「Enshittification」という言葉を生み出しました。プラットフォームがまずユーザーに良いサービスを提供し、次にビジネス顧客のためにユーザーを搾取し、最終的にはすべてから価値を吸い上げて崩壊する。そんなサイクルを描いた概念です。
この言葉はテック批評の定番フレームとして広まり、SNSへの不満を語るときの共通言語になりました。直感的に「わかる」と感じた人も多いはずです。
ところが、NYU教授でテック評論家のRuby Justice Thelotが、a16z.newsへの寄稿でこの通説に真正面から異を唱えています。
同氏が示すデータはシンプルです。Instagramを毎年より多くの人が使い、1日あたりの平均利用時間は年々伸び、ユーザーの報告する満足度も上昇傾向にある。ソーシャルメディア全体で見ても、ユーザー数は2016年の約25億人から2026年時点で約60億人近くにまで膨らんでいます。
「劣化している」はずのサービスに、なぜ人は集まり続けるのか。
「嫌いだけど使っている」
という矛盾の名前
Thelot氏はこの現象に「プラットフォーム・ナルシシズム」という名前を与えました。プラットフォームの主要機能と、個々のユーザーが求めるものとの間に生じる「進行的な乖離」のことです。
つまり、プラットフォーム全体の品質が下がったのではなく、ユーザーベースが爆発的に多様化するなかで、自分がもはやメインターゲットではなくなった。その居心地の悪さを「劣化」と呼んでいるのではないか、という指摘です。
Facebookを思い出すとわかりやすいかもしれません。2004年に大学生の交流ツールとして始まったサービスは、ニュースフィード、いいねボタン、アルゴリズムによる表示順の最適化と変化を重ね、いまやグローバルな情報インフラになっています。初期ユーザーにとっての「あの頃の良さ」は、数十億人を抱えるプラットフォームの設計思想とは、もう重ならないのです。
「声」と「行動」の
あいだにあるもの
もうひとつ興味深いのは、Thelot氏が指摘する「表明された選好」と「顕示された選好」のズレです。
ストーリーズ、リール、アルゴリズムフィード、おすすめ投稿。Instagramに新機能が追加されるたびにSNS上では不満の声があふれます。しかしMetaは、何千もの小さなデータ駆動型の判断を積み重ねてプロダクトを形づくっており、ロールバックはめったにしない。なぜなら、実際の利用データが「ユーザーはその機能を使い続けている」と示すからです。
「私はこれが嫌いだ」は「ユーザーがこれを嫌っている」とイコールではない。同氏のこの一言は、なかなか刺さります。
私たちが日常的に感じる「最近のSNS、なんか違う」という感覚。それは、サービスが壊れたサインではなく、自分とプラットフォームの関係が変わったサインなのかもしれません。
不満を感じること自体は自然なことです。ただ、その不満を「プラットフォームの堕落」という大きな物語に回収してしまう前に、一度立ち止まって考えてみる価値はありそうです。嫌いだと言いながら、今日もアプリを開いている自分は、いったい何を求めているのだろう、と。






