よく知らなかったし、イメージもとくにないけれど、最近やたらにニュースでみかける「コスタリカ」について
コスタリカという国名を聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか。日本の7分の1の国土しかない中米のこの国は、2015年に自然エネルギーを利用して世界初の偉業を達成しました。その取り組みからは地球的規模の問題を解決するヒントが。今、注目されつつあるコスタリカについて!
九州+四国程度の広さに
約8万7,000種の生物が棲息
コスタリカ共和国は、南北のアメリカ大陸をつなぐ、中央アメリカの南部に位置する国です。細長い国土の北はニカラグア共和国、南東はパナマ共和国と接し、南は太平洋、北はカリブ海に面しています。国土は51,000平方キロメートルと、九州と四国を合わせた程度。
しかし、その土地に地球上の全生物種の5%、8万7,000種もの生物が棲息すると言われ、まさに「生物多様性ホットスポット」。日本に棲息する哺乳類は約130種、鳥類は約500種と言われていますが、コスタリカに棲息する哺乳類は約260種。「世界一美しい幻の鳥」とも称されるケツァールをはじめとする鳥類は約850種とされています。さらに、蘭は世界の1割にあたる1,500種以上が自生し、昆虫も日本の何十倍もの種類が棲息。これらの数字だけでも、いかに多様な自然がある場所かうかがえますね。
コスタリカに多様な生物がいる理由としては、熱帯ゆえにもともと種類が多かったことに加えて、約300万年前に火山の噴火などによって南北アメリカ大陸が地続きになり、双方からの生物が混在したことが挙げられています。また、細長い国土の中央に標高3,000メートルを超える山脈が走るなど地形に多様性があることも、その一因のようです。
こうした世界でも類を見ない貴重な自然を擁するコスタリカは、自然に負担を与えることない「エコツーリズム」発祥の地でもあります。2010年には210万人を超える外国人観光客がコスタリカを訪れました。
目指すは、
自然エネルギーだけの国!
そんなコスタリカでは、自然エネルギーの利用を積極的に進めています。もともと水力発電の割合が高かったコスタリカでは近年、地球温暖化などの影響による降雨量の変化を考慮して、水力以外の方法による発電へとシフトしようとしていました。
その際に、地球環境に負荷の大きい化石燃料の使用は避けて、地熱、風力、太陽光、バイオマスなどの自然エネルギーの利用を選択したのです。
その取り組みは、2015年に一気に注目を集めることになりました。2015年1月1日から3月半ばまでの75日間、自然エネルギーによる電力供給のみでコスタリカ全体の電力をまかなうことに成功したのです。降雨量が例年より多く、四つの水力発電所の発電量が増えたという幸運もあったとはいえ、このニュースは日本でも報じられ、反響を呼びました。
さらに、水力発電の割合の上昇によって4月以降の電気代が平均12%減少。12月には、コスタリカの電力公社が「2015年1月から10月に生産した電力のうち98.7%が自然エネルギー(12月17日現在では99%)」と発表しました。ひとつの国の電力の9割以上を自然エネルギーでまかなえたことは、人類の歴史においても画期的と言える出来事です。
地熱、風力を活かして火力を削減し、
カーボンニュートラルにも挑戦
自然エネルギーのなかでも地熱発電は、水力発電に次ぐ発電量があります。活火山が6つ、活動を休止している火山に至っては数十もあるコスタリカでは、地熱から安定した電力が得られるのです。そこには日本の技術も導入され、2015年の地熱による発電量は全体の12.9パーセントにのぼったそうです。
1980年代に導入された風力発電も、現在は9つの発電所が稼働しており、2017年までに8ヶ所が新設される予定です。2014年に全体の発電量の10.4%を占めていた火力発電は、2016年の間に完全停止することが決まっています。
課題もあります。コスタリカでは古い自動車が交通渋滞を起こし、大量の温室効果ガスを排出しています。政府は自動車についてもエコカーの輸入を促進するなど排出抑制策を打ち出し、2021年までに人為的な二酸化炭素の排出量を吸収量よりも低い水準にする、「カーボンニュートラル」を達成すると宣言しています。
その背景には
悲劇と反省が……
コスタリカが国を挙げて環境保全に取り組む背景には、悲しい歴史と反省があります。じつはコスタリカは、国土の約95%を占めていたとされる森林を1987年には約21%まで激減させてしまった経験があるのです。
この状況に危機感を抱いたコスタリカ政府は、1980年代半ばから、環境保全のための取り組みをスタート。まず政府は生態系の価値を認め、保護する森林の面積に応じて土地の所有者に経済的インセンティブを提供することにしました。
こうした施策を通じて、現在では国土の4分の1以上を国立公園・自然保護区として保全しています。他国であれば軍備に回す予算を教育に充て、国民に環境の重要性を根付かせたことも環境保全施策を後押し。今では「健全な環境なくして健全な経済はあり得ない」ということを多くの国民が理解していると言われています。
それらの結果、森林減少率はゆるやかに改善し、1998年にはついに0に! その後はエコツーリズムを中心に海外からの観光客を誘致し、観光収益の一部を森林再生に充てるなどの取り組みも実施。2010年には、森林面積は国土の約52%まで回復しました。
コスタリカ(Costa Rica)という国名には、スペイン語で「富める海岸」という意味があるそうです。その名のとおり、豊かな自然を擁するコスタリカ。しかしこの国にあるのは自然だけではないように思えます。永世非武装中立、自然エネルギー100%での国家運営、カーボンニュートラル宣言などなど。その思いや行動力こそ、コスタリカの豊かさだと言えるかもしれません。