物語に情景を添える「挿絵」の美しさに、アナタは気づいてますか?

ここに登場する絵は、すべてイラストレーター高田美穂子さんによって描かれた「挿絵」です。

小説の主役は、言うまでもなく「物語」そのもの。けれど、こうして文芸誌や小説誌の中からイラストだけを抜き出してみるとどうでしょう?一枚一枚、とっても味わい深いことに気づくはず。

読み手の想像力に
委ねる余地を残す。

0b187ac08fa42dcb8651c8b221e659a60b84a261

挿絵の制作は、まず原稿を読むところから始まります。ただし、物語はできるだけ客観的に読むことをポイントに挙げる高田さん。

「一読者としてではなく、イラストレーターとしての立場から、自分の主観的心情を極力排除する」ことで、客観的要素を一定に保つことができるんだそう。これが良い挿絵をつくる前提にある彼女の信念。

では、ふたりの小説家の作品を中心に、高田さんのアートワークを見ていきましょう。あえて情報は「タイトル」だけに留めました。挿絵の向こうからどんなストーリーが見えてきますか?

『半月の子』

7ffbd2814adb117934357b12d2591770285095fbD5ce4eab41f4082d296ec2b7de9322306fac9279
中澤日菜子著『半月の子』 
 (講談社『小説現代』2014年10月号)

『半月の子』に描かれたスーツケースの扉絵(とびらえ)と病室のシーンを描いた挿絵。衣類の一番上に置かれた意味深な封筒、締めきったカーテン奥で密かに会話する男女。たとえ小説に目を通していなくても、挿絵から伝わる印象で物語を想像してしまうでしょ?

『オオナベくん』

Dff217a76165a7064199dfe89021a2006a0c9598

中澤日菜子著『オオナベくん』 
 (講談社『小説現代』2015年1月号)

高田さんのイラストは、すべてPhotoshopを用いて描かれたもの。ブラウン管TV時代の“砂嵐”を見ているような独特の質感は、ブラシを変えてアナログ加工を施しているんだそう。

ところで、月刊誌の挿絵は主に白と黒、モノクロームの世界でしか表現ができません。この制約をどう高田さんは捉えているのか?

「光と影の明暗を使う表現方法は、人物の心情を映し出すのに適しています。具体的な表情や動作などを描写せずとも、場面に抑揚を持たせることができる。この点においては、カラーよりも優れていると感じています」

イラストレーターとして活動する以前から好きだった、モノクロ映画や写真における光(照明効果)の演出がこの挿絵にも生きている、と高田さんは言います。白と黒の世界で表現される「光と影」に注目すると、挿絵の登場人物の心情がぼんやりとにじんでいたり。なるほど。

『ミュータントおじや』

De9f9f28ccab55f98544214bac80786091229f3f21b7800e75bbc3812cbdee18801a58cf9fcc1cfb

中澤日菜子著『ミュータントおじや』  
(講談社『小説現代』2016年1月号)

『Swing by』

205be5af1d5d7938828adecf2b642baf2543e1931c59cafb9b7ed6774f26d637362670a270a1e9b9

中澤日菜子著『Swing by』
  (講談社『小説現代』2015年4月号)

『ことこと列車』

4092884eda67f64a865ddc209b58ea1c1d53d923E93427f5a08a293890aa869a5bca87fb08f7c41b

『ことこと列車』 中澤 日菜子著  
(講談社『小説現代』2014年2月)

『サルマ納豆』

Ef63265ad47436e5bfe7ead872670d349b41379fA73da44cb05719dc278afa5fd08d3911f6eb191f

中澤日菜子著『サルマ納豆』
  (講談社『小説現代』2015年11月号)

『小人の巣』

0edaa44af9ca76083d963f542677a4035995f08eAb264903541c82747d76245e131b502f6e39db22

白川 三兎著『小人の巣』  
(扶桑社『小説推理』2014年10月号)

『小人の巣(2)』

0cc92bc396341fc8f5dfbc0643576eb20e470f198afa26fee7a8d951a6abee6acae216135bf3cf72

白川 三兎著『小人の巣(2)』  
(扶桑社『小説推理』2014年12月号)

『小人の巣(3)』

0c6a262598453b629f8f63b3ac107d0be533d657Db4a64063478665a462ad116d8a7529e2a8734c9

白川 三兎著『小人の巣(3)』  
(扶桑社『小説推理』2015年1月号)

小説とイラストの
適切な距離感って?

主役はあくまでも「物語」。ともすれば、挿絵が加わることで、イラストレーターの解釈が物語の印象に少なからず影響を与えることもあるかもしれない。こう自問自答した経験がある、と高田さんは告白します。

そこから彼女が見つけ出した答えは、「小説とイラストレーションの適切な距離感を保つ」こと。平たく言えば、物語の持っている雰囲気を表現するに留め、決して“説明しすぎない”ことだと言います。

文中にぽっと、物語の情景を匂い立たせるだけ。あくまで脇役に徹する挿絵。それでも、ストーリーの間に差し込まれた1枚のイラストが、ぱっと脳裏にイメージを広げ、物語に私たちを没頭させてくれる。不思議なチカラがありますよね。

イラストレーター高田 美穂子さんのアートワークは公式ページから。挿絵の他にもステキな作品がいっぱいです。

Licensed material used with permission by Mihoko Takata
新作をアップすればたちどころに買い手がつく、売れっ子イラストレーターPing Lin。もともと絵本の挿絵を専門に描いていたが、芽が出ず廃業。それがちょっぴ...
イラストレーターのThomas Duboisが描くのは、「宇宙の先」を考えさせるリアルな物語。国際宇宙ステーションが爆発し、無重力空間を漂うこととなった宇...
映画「泳ぎすぎた夜」は、6歳の少年が雪が降り積もる街で迷子になる。ただ、それだけの何も起こらない物語だ。
赤ずきんちゃん、ピノキオ、三匹の子豚、シンデレラ、ピーターパン…。イタリアの建築家兼デザイナーであるFederico Babinaさんの手がけたイラストは...
FRANK DIAMONDの写真は、おとぎの国のような美しさや物語がある。でも、彼の生み出す世界は、すべて“闇”を感じてしまう。乙女たちと白馬の王子様との...
その佇まいは、大切な人から届いた手紙のようです。手紙というのは、書いた人の気持ちが込められたものであり、人を喜ばせる魔法の力を持っています。あの名作文学を...
こちらのイラストは、フィラデルフィア郊外在住のイラストレーターBen Pannellが手がけたもの。それぞれのテーマはバラバラだが、共通しているのは、妻で...
気がつくと「お腹が空いたな〜」「何食べようかなぁ」と考えてしまっている食いしん坊なアナタ。ロシア在住のイラストレーターLingvistovさんが描く「ある...
王子様と女の子が恋に落ちてハッピーエンドを迎えるのがおとぎ話の王道。だけど自らもLGBTであるAdam ReynoldsとChaz Harrisのつくった...
1940年代のアイルランド。そこは宗教的圧力と古く保守的な風習によって女性たちが虐げられてきた歴史を持つ。この物語の主人公ローズは、美しいという理由だけで...
2015年に女の子を出産したイラストレーターLucy Scottさんの言葉。母となり初めて感じた大変さをイラストに残していきました。どれも新米ママの苦悩が...
愛想はないけど、甘え上手。気分屋だけど、憎めない存在…。ペットとして絶大な人気を誇るネコですが、一口にネコといっても様々なタイプがいます。イラストレーター...
Jane Perkinsさんは、使い古されたボタンやオモチャなど、いわゆるガラクタを再生させるアーティスト。一つひとつに“違った物語”が詰まっているモノと...
ファンタジーの金字塔『指輪物語』、『ホビットの冒険』は、世界中に熱狂的なファンがいる作品。小説を元にした映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』も、...
親に「目が悪くなるよ」と言われながらも、布団のなかで夢中になって本を読んだ子どもの頃。あとちょっと、と思いながらも止まらなくなって、結局朝を迎えてしまった...
映画『ノクターナル・アニマルズ』は、グッチやイヴ・サンローランのクリエイティブディレクターを経て、自身のブランドを立ち上げたファッション界のアイコン、トム...
「〇〇の秋」と呼ばれるように、久々に何かを再開したり、新しいことに手を出してみるのにちょうどいいタイミング。ライターのChanel Vargasさんが推す...
この映画のタイトルにある「ふたつの正義の物語」という言葉が気になった。撮影に同行したジャーナリストの知人にどんな映画なのかを聞いてみたら、一言で説明するの...
ポール・オースターは、1947年生まれのアメリカの小説家。彼を一躍有名にしたのは、ニューヨーク三部作だ。
ワクワクするようなことがあったり、ちょっと怖いものが潜んでいたり、絵本の中には様々な出会いがある。登場するモノや生き物に魅力を感じて読み進めていくのはとて...