今や伝説となった「500色えんぴつ」に込められた想い
「朝食のスクランブルエッグ」、「あぜ道のたんぽぽ」、「月の女神ダイアナ」、「初夏の枇杷」etc….。
美しい情景やユニークな音の響きをもったその名前にふれるだけで、たちまちイマジネーションがふくらみ、未知の世界の扉の向こうへと連れていってもらえるような、ワクワク感と期待感に包まれます。
一見何の脈絡もなさそうな、固有の名称とそこから想起されるイメージが織り成す、唯一無二の世界観。それは今年で創業52年目を迎えた大手通販会社、株式会社フェリシモ(以下:フェリシモ)が1992年に企画販売をスタートさせた、伝説の商品『500色の色えんぴつ』が表現する、色彩の豊かさと美しさです。
ステーショナリーの専門メーカーではないフェリシモから、一体なぜこんなにも魅力的な色えんぴつが誕生したのでしょうか?
ここでは、そんな素朴な疑問の答えと誕生の背景を探るべく、同社の広報、石井さんにお話を伺ってみました。
“500”という数字から広がるイメージが発想の原点
「500色の色えんぴつは、コロンブスの新大陸発見からちょうど500周年に当たる1992年に、アニバーサルイヤーを記念してできた商品です。でも実は始めから色えんぴつを作ろうと決めていたわけではありませんでした。
“500”という数字に因んだ何か夢のある商品、持っているだけで幸せな気持ちになれたり、こんなのあったら楽しいよね!とワクワクしたり…。そんな想像力を掻き立てられるようなモノを作りたいと。全てはそんな“想い”から始まった商品なんです」
私たちの身近にある色から自然の風景が浮かぶ色、さらに空想のなかで広がってゆくイメージの色まで。世界中にあふれる多種多様な色彩を丸ごと贅沢にパレットに落とし込んだような本商品は、通常メーカーが商品づくりの際に辿るプロセスや、まず商品から入るというモノありきの発想からではなく“500”という数字から広がるイメージや可能性が、色数の豊富さや微妙なグラデーションとなって結実したもの。
それは創業以来ずっとフェリシモが変わらずに大切にし続けてきた「ともにしあわせになるしあわせ」という価値観ともつながり、目の前に商品がずらり並ぶだけで、まるで夢心地の気分にさせられてしまいます。しかし人気の秘密は、商品の魅力だけではありませんでした。
効率重視の発想からは決して生まれない、“待つ”という時間の豊かさ
「この色えんぴつは500本を一度にお届けするものではなく、毎月25本ずつ20ヶ月に分けて購入していただくことで、やっと揃えることのできる商品です。なぜこの方法を?というと、フェリシモは“コレクション”という考え方をずっと大切にしてきたからなんですね。もちろんこの方法が難しく、待ち切れない、じれったいと思われる方もいらっしゃるのかも知れません。でもそこには一度に手に入らないからこそのじっくり集めていくという楽しみや、“待つ”という時間の中にしか生まれない豊かさがあるんです」。
今日注文したらすぐに届く。そんな効率重視のスピーディーな社会のあり方とは逆をゆくこの販売方式は、単に欲しいものを手に入れる喜びだけでなく、待ってでも欲しいと願う気持ちや、そのプロセスも含めて楽しめるような特別感、そして何よりも時間という見えない価値を提供してくれるもの。さらに箱のデザイン性にもこだわることで商品が届いた瞬間、まるで自分へのプレゼントを贈られた気分になれる。そんな夢のあるストーリーを創造できるのも、フェリシモならではの魅力と石井さんはおっしゃいます。
色の名称の由来、そしてその先に広がる未来の可能性とは?
さてここでもう一つ興味深かったのが、500色それぞれに名づけられた個性的な色の名称について。思わず口ずさみたくなってしまうような遊び心溢れるチャーミングな名前の数々は、一体どのように生まれたのでしょうか?
「1本ごとに異なる色の名称は、全てうちのスタッフのアイデアによるものです。色というのは人がこれまで生きてきた背景をもとに、人それぞれの色のイメージが出てくるものだという代表の考え方があって。なので最初の企画段階では2,000以上の候補があったんですよ。でも最終的にはちゃんとその色をイメージできてかつ難しい色の表現にならないようにという当初のコンセプトを大切にして選んでいって、500まで絞り込み、カタチにすることができました」
一人ひとりが生きてきた背景、そしてその人の色の記憶や感性が伝わってくるような名称からは、どこか懐かく自然とあたたかい気持ちにさせられるようです。
お子さんが誕生するまでに揃えたいというお母さんや、孫が一歳になるまでに欲しいとおっしゃるおばあちゃま、それから自分では使わないけれど部屋のインテリアにしたいという方まで、本当にいろんな方が買い求めたそうです。
商品を待ち望む人たちが『500色の色えんぴつ』と出合い、多彩な色にふれていくことで、五感が育まれ、その人自身の豊かな色の表現や世界になっていく。そんなまだ見ぬ未来の可能性が描けるのも、この商品の魅力の一つだったのかもしれません。
「効率」や「スピード」を重視する社会のあり方とは逆で、あくまでも「より多くの人を幸せを届けたい」という想いに基づいて生まれた『500色の色えんぴつ』。つい先日、2013年バージョンが惜しまれつつ販売終了となってしまったものの、商品に込められたたくさんの想いや価値観は受け取った人の大きな喜びのもとに、幸せの循環となって大切に受け継がれていくことでしょう。現代において「本当の豊かさとは何か?」という数々の示唆を与えてくれる伝説の商品の今後の新たな展開を見守りつつ、“待つ”という楽しみを今からじっくりと育てていきたいですね。