この博物館でしか、世界中のワインの魅力を「五感で体験」することはできない
仏ボルドーに今年6月オープンした 「La Cite du Vin (ワイン文明博物館)」。ボルドーワインで有名なこの街の新たなシンボルとして、構想から8年の時を経て完成したこの施設のこだわりは、「細部のつくりまでワインの魂を表現すること」。
さて、そのこだわりとは?
博物館そのものが
ワインのカラフェ型
©Photos AnakaLa La Cité du VinXTU architects
まず注目すべきはその建築。18世紀からの伝統的な建物が並ぶ中心街からトラムに揺られること15分、ボルドーワインのぶどうの生産を支えているガロンヌ川沿いに、突如として現れる巨大な近代建築がワイン文明博物館だ。
天高くうねりながらせり上がっていくこの建物、刻一刻と変わる空模様や太陽の向きによって違う光り方や表情を見せてくれて、見ていて飽きることがない。設計者はワインのカラフェやガロンヌ川の流れをイメージしたという。
美味しいワインを飲んだときに体の中を駆け巡る躍動感(や、その年の気候やグラスの中でも味が変化するワインの面白さ)を連想する人もいるかもしれない。
ちなみに建物の中も曲線美だらけ。3,000平方メートルにも及ぶ3階の展示スペースを構成する574本の木製の梁は、1本1本が異なる曲線を持っていてすべてカスタムメイドだ。
パネル展示を廃し、
ヘッドホンとタブレットで
体験と没入に特化
展示のコンセプトは「体験型、没入型、そして直感的」。
館内には、延々と説明文が書かれたパネルはほとんど存在しない。入り口でまず渡されるのがヘッドホンとスマートフォンのような「トラベリングコンパニオン」。 その名の通り、ワインの文化を知る旅のお供になってくれる。
これを館内250カ所にあるセンサーにかざすと、各展示と連動したアトラクションが始まるようになっている。表示言語とオーディオは日本語も選択可能だ。
入り口の大きなスクリーンにはヘリコプターから見た世界有数のワイン畑の映像が次々と映し出され、別のスクリーンでは各地の生産者やマーケティングに関わる人たちが、自分の土地で生産されるワインの魅力をプレゼンしてくる。
インタラクティブな地球儀を回すと、「え?こんなところでもワイン造り?」と驚く産地があるかもしれない。
ワインの歴史は貿易船に乗って
©Photos AnakaLa La Cité du VinXTU architects
歴史もちゃんとカバーされている。「ワイン文明」のコーナーに設置された箱の中にセンサーをかざせば、ユーモアに溢れた寸劇が始まる。
箱から箱へとテンポよく進んでいくと紀元前6,000年の古代エジプトから現代に至るまで、ワインがどのように生まれ、楽しまれ、広まり、守られてきたのかを学ぶことができる。
隣の鑑賞スペースでは、ワイン貿易船に乗る旅を体感できる映像コンテンツも。飲んだ後に見ると船酔いしてしまうかも?
ワインの特徴を表現する
「香り」も展示
ところで、よく花や植物、香辛料の香りでワインの特徴を表現することがある。それってどんな匂いなの?と首をかしげることも多いけれど、ここではそれらの香りを実際に嗅いでみることができる。それが、このずらりと並んだフラスコ。
常設展示だけでも全部で10時間を超えるコンテンツは、生産者や仲介業者、ソムリエ、レストランのシェフやブロガーのワインの専門家など、まさにワインの魂とも言える人々100人のインタビューをもとに作られているそう。
これを“マンツー”で聞くことができるブースも多く設置されており、誰の話を聞くのか?何について質問するのか?来場者それぞれが自分で自由に動き、自らが触れるコンテンツを選択して、発見を楽しむ。この「旅らしさ」が展示の醍醐味だ。
ワインを飲む人も飲まない人も、知識のある人もうんちくが嫌いなひとも、誰もが楽しめるようにと作られた展示。なんと、こども向けのツアーもあるそう。
入場料にはグラス1杯の
テイスティングも含まれている
街はボルドーワインで有名な場所だけれど、あくまでも世界のワイン文化を楽しめるのがこの博物館の醍醐味。1階のワインセラーでは70か国以上から集められた800種類ものワインを取り扱っており、シリアやエチオピア、バリやタヒチなど珍しい国の銘柄も。また、自由に閲覧できる2階の図書館には世界中から集められたワイン関係の書籍がある。
そうそう、入場料にはグラスワイン1杯も含まれており、360度ガラス張りの9階展望台にて味わうことができる。その1杯をどこの国のどのワインにするか、悩むところだ。
展示や試飲で満足できない人は博物館の主催するワイン教室でテイスティングをより深く学んだり、最上階の展望レストランで食事とのマリアージュを楽しんだりすることもできる。(どちらも入場チケットなしでも利用可能)。
ちなみにワイン博物館で働く人たちのドレスコードはピンクのシャツにカーキのボトムスとカジュアルだ。博物館を訪れた人ならば、町中でこの色合わせの人を見かけると職員だと分かるだろう。これも、ワインとともに生きてきた伝統的な町の中になじむ、粋な仕掛けのひとつだ。