こういうお菓子の存在だけで「沖縄って旅行先としておもしろいよな〜」と思う。
写真がその月桃餅。沖縄ではお餅を意味する方言「ムーチー」の名で知られる。
(沖縄出身の人にとっては当たり前すぎる話だろうけれど)その名の通り月桃の葉に包んで蒸したものとなる。黒糖や紅芋、うこんなどが練りこまれていて、それによって色みも違ってくる。
当地では伝統的なお菓子で、旧暦の12月8日に子どもや家族の健康を祈って祈願する、神仏へのお供え物だったとか。昔は家々で作って親戚に配っていたぐらい県民には身近な存在。今でも給食に出ることもあるらしい。
では、観光客がそれを食べようと思ったら、どこに行けばいいのか?
その答えは市場だ。地元の人が買い物するようなローカル市場の商店の軒先が、ムーチーの定位置となっている。
例えば、写真は那覇市の公設市場での一コマ。お土産物屋もたくさんある国際通り近くにあり、観光で訪れる人も多いが、少し路地を入っていくと地元の人が利用するローカルな商店がある。
そして、ここでもいくつかのお店でムーチーは売られている。お値段はどこでも2~3個入りで200円とかそんな具合。ただし、お店によって包装の仕方もバラバラだし、味はもちろんのことかたちとかサイズも違ってくる。
それもそのはず、どのお店でもオバァ(沖縄の方言でおばあちゃん)の手作りなのだから。
比較的国際通りに近い場所にある『やまや』。家族で毎朝4時からムーチーを作っているそう。
戦後から3代続く『大城もちや』。毎朝、月桃の葉を洗うのが大変なのだとか。
いろんなお菓子が並ぶ『松原製菓店』。当然、ムーチーもラインナップされている。購入するのは、観光客ではなく、主に地元の人だ。
ムーチーは、大量生産するようなものじゃない。毎朝オバァがお店で売る分を手作りするのが基本なのだ。
それぞれのお店の看板オバァにいろいろ聞いてみたところ、食べごろは「翌日ぐらいがちょうどいい」らしい。理由は「作りたては柔らかくて形がくずれやすい。かと言って、時間が経ちすぎると瑞々しさが損なわれるから」とのこと。
そう、ムーチーは生菓子だ。
日持ちしないから、サータアンダギーやちんすこうのようにお土産にはならない。1個100円もしないお餅の、値段では決してはかれない価値がそこにある。沖縄まで行って食べるしかないのだ。
ムーチーの味?
オバァ曰く「月桃の香りが独特なので、地元の人でも大好きという人もいれば、苦手という人もいる」そうだ。
でも、美味しいとか美味しくないとか、そういうのは野暮じゃないか。
沖縄にしかないお餅があって、今でもオバァが手作りで、市場で販売していて……。
そういうのを全部ひっくるめて体験するのが、沖縄の楽しみ方のひとつだと思う。