戦後日本のスローガンが、時を超え、現代のシドニーへ。
都心部における不動産価格の上昇や人口増加の影響を受け、満足のいく家探しに頭を悩ませているのは、何も東京だけに限った話ではない。そう、実はここシドニーでも同じ現象が起きているらしいのだ。
そんな中、手頃な価格で、狭くとも住みやすい部屋を提供するための工夫が話題に。限られた空間を最大限活用すべく、デザイナーNicholas Gurneyさんがヒントを求めたのは、なんと日本独自のスローガン「5S」だった。
「狭い家」でも
工夫しだいで快適に
まずはじめに「5S」を整理しておこう。
「整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)」を指すこのスローガンは、戦後日本で広まったもの。もともとは労働効率を上げることを目的に考案されたが、その後、健康管理や教育のシーンでも使われるようになっている。そんな日本独自の考え方が、現代のシドニーの家づくりに適用されたところに、この話の面白みがある。
「5S」をもとにNicholasさんがデザインしたのは、24平方メートル(約13畳)の新婚向けマイクロアパート。日本の収納術を基盤とした生活空間を作り出した。
収納だけじゃない
「広くする」ための創意工夫
日本ではよくあるタイプに見えるけれど、注目してほしいのは最低限の家具が全て備わってこの状態という点。収納がたっぷりあるので冷蔵庫、電子レンジなどが設置された上で、かなりのスペースが確保されている。
え、テーブルやテレビ、ベッドはどこかって?
テーブルは調理台の下。ちゃぶ台感覚で収納可能というわけ。これ、基本的に家の広い海外ではあまり見ないタイプの食卓だ。
ちなみにキッチンは、水場と調理台が分けられている。家に入った時に水回りが見えないのは助かるかも。
テレビはこちら。ベッドルームとの仕切りとなるドアに取り付けられている。ドアが180度回転するので、リビングからもベッドで寝転びながらもテレビが見られるんだそう。13畳でベッドルーム別なんてふたり暮らしには十分なんじゃ?
さらに、上の画像の左端を見ると、ドア横のわずかなスペースに本棚が見える。この家はどんな空間もムダにはしない。
シンクの横にはバスルームへのドアが。これは鏡になっていて、トイレやお風呂場が目立たないようにしつつ、狭い部屋を広く見せているのだ。細かな部分にも、少しでも部屋を広く感じさせようという工夫が見られる。
「このアパートは、少量のものと暮らすことを推奨しているんだ。取捨選択、持ち物の見直しに重きを置いている。ものすごく狭い空間でも心地よく暮らすためにね」
とは、Nicholasさんの弁。
「5Sアパート」は
住宅難を救えるか?
そもそも13畳ってそんなに狭い?と個人的には思うけれど、もともと大きな家に住んでいる外国人にとっては、このアパートのようにかなりの創意工夫が求められるのかもしれない。たしかに、日本の、特に1〜2人暮らしの家の狭さには、驚かれることもよくあるし。
狭い中でも自分に本当に必要なものを見極め、工夫して心地よく暮らすための提案。日本発のスローガンが、海外の住宅難の救世主になれるか。一日本人として注目したい。