これがわたしの会社。ここは地獄なのでしょうか。

社名も業界も言えないんだけど、昨年まで〇〇会社に勤めていたわたし、リツ(偽名)。運が悪いのか、それとも自分が寛大ではないのか。それはわからないんだけど、わたしが以前、働いていた会社には“変なヤツ”が多くいました。

そのためか、いつもゴタゴタと次から次へと問題が。もう、あり得ないことが起こるんです。福利厚生がどうのとか、給料が安いとかのお話じゃありません。昼ドラのようにドロッドロな社内恋愛、モラハラを自覚していない上司、女性社員はキャバクラ扱いなセクハラ…………。もう、挙げるときりがないんです。ふぅ。

これは、人間の「闇」に迫る物語かもしれません。では、実話をもとにして綴ったブラック企業体験記vol.1を。

「ドカッ!!」

社内に響くこの音。普通にサラリーマンやOLとして働いているなら、オフィスであまり聞かないようなこの音。

わたしには、何の音なのかすぐにわかった。おそらく社内にいた全員がわかったと思う。そう、振り返らずとも。

 

「おい!このバカヤロウ!!お前には脳みそがあるのか?ああ?わかってるのか?」

 

「ドカッ!ドカッ!」

 

ああ、また始まった。社長のパワハラが。今度は、営業のRくんに罵声を浴びせながら、彼のデスクにあるキャビネットをドカドカと蹴飛ばしている。鈍く響き渡るその音と社長の汚い言葉と汚い声。

このとき、まだ入社して一ヶ月のわたしだけれど、何度も見ているこの光景にウンザリしていた。まず、Rくんがなぜ異常なほど、怒られているのかというと。

営業課にかかってきた電話に、
「1コール」ででなかったから。

わたしが入社して一番最初に先輩から教えられたのは、電話に関しての重要事項。電話が鳴ったら、「3コール以内」はよく聞く話。うちの会社の場合は、「1コール以内」。

電話は基本的に新人が対応すること。それは、わかる。1コール以内。それも、まぁいいだろう。

でも、「この1コールには、死んでもでなくてはいけない」という絶対のルールが、わたしの会社にはあった。昼休憩中だろうが、トイレに行ってようが、1時間後に始まってしまう大事な商談用のプレゼン資料をつくっていようが、1コール以内は絶対。

でないと、社長からの制裁がくだる。この“1コールオヤジ”から、バカとかアホとか。最終的には「今すぐ死ね!」と言われて、近くにあるものを破壊しだす。

入社一ヶ月のわたしは、このときまではルールを何とか死守していた。でも、ついにその日はやってきてしまったんだ。

プルルルルル…

トイレに行きたくなり、隣の席に座るN先輩に電話番をお願いしたわたし。席に戻ろうとすると、デスクの上に置いてある電話が鳴り響いた。が、近くに先輩はいない。

それに気づいた瞬間に走り出していた。でも、わたしが出たのは2コール目が終わったとき。恐ろしくて、社長が座るデスクの方を見れなかった。

電話の相手が言ってることを必死にメモするけれど、頭の中にはまったく入ってこない。ただ、変な汗とサーッと血の気の引く感じ。それに、バクッバクッという自分の心臓の音。

電話が終わると、社長が歩いてこちらに向かってくる。わたしは、慌てて「申し訳ありませんでした」と謝ると、社長の手がわたしのデスクの方へ。

 

「バンッ!」

 

「え…………………………………?」

 

一瞬、何が起きたかわからずに、音が鳴った方を振り返ると。デスクの上に置いてあったはずのわたしのスマホが、画面バキバキに割れて床に転がっていた。

 

「えええ?」

そこから、始まった。地獄の日々。

バキバキに割れたわたしのスマホ。そして、「お前は会社を潰す気か!?」と、わたしを怒鳴りつける1コールオヤジ。

今まで散々見てきた光景だったのに、いざ自分がそうなるとでは全然違った。何が何だかわからなくて、頭が真っ白。ただ、今にも崩れ落ちてしまいそうな自分を守るために、なるべくダメージを受けないように心の中を「無」にするようにしていた。

長い長い、言葉の暴力が終わったとき。わたしの頬にはあたたかな涙が。本当はトイレに駆け込みたかったけれど、また電話が鳴ったらどうしようという恐怖で、その場所を動けなかったんだ。

社長が外出したあと、先輩から「ごめんね」と謝罪の言葉。なんでも、社長からの緊急の依頼があって、対応するために席を外していたのだと。

入社してからずっとお世話になっているN先輩は悪くないと思うし、恨んでもいない。やり切れない気持ちのまま、その日を終えた。

 

でも、その日から地獄の日々が始まることに。

 

次の日、出社して席に座ると、すぐに電話が鳴った。すかさず、電話に出ると、電話先の相手から「声が小さい!」と怒鳴られる。

「え?」と、顔を上げると、社長が自分の携帯電話を持ってこちらに近づいてきた。そう、わたしがでた電話の相手は1コールオヤジだったんだ。

時間なんて関係ない、
無駄に続く抜き打ちテスト。

“あの事件”があってから、社長の抜き打ちテストが始まった。出社してすぐ、昼休憩中、先輩からアドバイスを受けてるとき。ひどいときは、終電近くまで残業して帰ろうとして席を立った途端になんてことも。時間もわたしの状況も関係なく、社長からの電話はかかってきた。

1日に10回もかかってくることもあれば、1〜3回。たまにだけど、かかってこない日も。社長からの電話がない日でもわたしの心が休まることはなく、トイレに行くのが怖くなり、我慢するようにまで。これにより、膀胱炎にもなった。

N先輩から心配され、他の社員からも心配され、「自分がでるから、ちゃんと休憩しなよ」と、あたたかい言葉をくれる人も多くいて。以前、怒鳴られていたRくんも声をかけてくれた。だから、限界ってときだけ、周りにお願いして、でもなるべく電話にすぐでられる状態をキープする努力をし続けた。

それから、1ヶ月くらいが経ち。このくだらない嫌がらせにすっかり疲れたわたしは、退職を考えるまでに。もう、本当に辞めようかを考えていたときに、またプルルルル…と鳴り響く電話にでると。

「合格!!」

1コールオヤジの声。しかも機嫌が良さそうだ。

わたしは何が何だかわからなくて、社長に「合格なんですか?」と聞き返した。

「ああ、そうだよ。リツくん合格だ!今日から電話にでなくて良いよ」と。

「ほんとに?やったー!」とわたしは心で思ったことを、口に出しそうなくらい喜んだ。あまりの嬉しさに、あんなに憎かった社長に心から感謝してしまうほど、とても嬉しくて仕方がなかった。「ありがとうございます!」というわたしの言葉に、社長がご機嫌な笑い声をあげて電話は終了。

その日は残業もなく、定時に仕事を終えた。帰りの電車の中でわたしの頭は冷静に。「いや、待てよ。あの執拗な1コールオヤジの嫌がらせがこれで終わるはずがない」と疑念を抱く。

でも、翌日。会社に行くと最近入ってきた新人の女の子が、電話番を任されることに。わたしは本当に解放されたのだった。しかも、突然、アッサリと。

平和とは言えないけれど、
1コールの恐怖は終わった。

わたしが苦悩した“電話地獄”は終わる。こんな社長の会社だから、平和とは決して言えないけれど、あの日々からは解放され、退職しようという考えもいつの間にか薄れていた。

でも、新たな地獄にわたしは直面することとなる。続きは次回、昼ドラみたいにドロッドロな社内恋愛編で。

vol.1 地獄の1コールオヤジ編 完

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。