巨匠・棟方志功の壁画がある、資料館のような桐生のカレー店
正直にいうと、棟方志功に詳しいわけではありません。坂口安吾も、シャンソン歌手の石井好子のことだって……。でも、みんな、“道”を極めた方たちだってことは、なんとなくわかります。
群馬県桐生市にある「芭蕉」は、彼らが常連だったほか、地元の文化人たちも愛し通ったお店。一体どんなお店なのか、気になりました。
半世紀ぶりに蘇った、
伝説の「ムナカタ壁画」
まず最初にチェックしておきたいのは、「芭蕉」には、棟方志功が描いた壁画があるってこと。
「芭蕉」の創業は1937年(昭和12年)。
お店のデザインも手がけた、先代店主の小池魚心さんが棟方志功のファンだったそうで、お願いして描いてもらったのだそう。お二人の関係性としては友人の友人。念願叶って、お店に壁画が施されたのは1953年(昭和28年)のことでした。
ところが、魚心さん、
「このお店の雰囲気に合わない」
と、すぐに塗りつぶしてしまいました。
その後、二代目の決断によって壁画の発掘作業が行われたのは2008年(平成20年)のこと。約55年の時を経て、また、この世に蘇ったのでした。
……という、壮大なエピソードをもつお店だったんです!
雰囲気が
とにかくスゴイです。
入口からちょっとびっくりします。
「レトロ」じゃ足りないくらい、一風変わった感じです。
見応えがあって、ここで結構な時間うろうろしていたのですが
いざ中に入ってみると……。
先ほどの棟方志功の壁画があり(場所は入り口から入ってすぐ右上。二階へ続く階段の途中部分が絶好の鑑賞スポット!)、
独特な個室のような空間に間仕切りされていて、
馬のコレクションやたくさんの絵馬が飾ってあり……。
こう、資料館とか博物館に来たかのような感覚になります。
魚心さんは民芸品の収集などもされていた方なんだそうです。
お店にはいくつかルールも掲げてありました。
思わず笑ってしまったのは、
この銅羅を叩いてください
各席に、それぞれちょっとずつ違った銅羅状の叩きものがありました。
これが呼び鈴代わり……随所に散りばめられた遊び心、楽しいです!
創業以来、変わらぬ味
カタカナを使わずに書かれたメニューがまた、いい感じです。
二代目の奥様にお聞きし、創業以来の名物「印度かりー」と、もともと気になっていた「馬小屋かりーこーす(すーぷ、さらど付)」を注文することに。
「印度かりー」は、わりと甘めでまろやかな感じ。具がほとんど感じられないくらい、よく煮込まれていました。こちら、ずっと味を変えずに受け継がれているとか。
時代を越えて、文化人たちと同じものを食べているって考えるとちょっと不思議な感じがしました。
続いてこちらが「馬小屋かりー」です。「印度かりー」より辛さがあり、じわじわくる感じ。奥様がスパイス系とおっしゃっていました。
味わい深いカレーをいただきながら、こんな風に思いました。
もちろん料理もなんだけど、コンセプトも空間も、というか「芭蕉」そのものが、魚心さん渾身の作品なんだろうな、と。だからこそ、気に入らなければ、棟方志功の壁画すらも塗りつぶす。
一般的な価値よりも、自分のこだわりの部分をものすごく大切にされていたんだろうなあ。そして、そんな姿勢が、錚々たる文化人たちを魅了してきたのかな、と。
「異国調菜 芭蕉」
住所:群馬県桐生市本町5-345
TEL:0277-22-3237
営業時間:11:00〜20:00(ランチ 〜14:00)
定休日:火曜日、第2または第3水曜日