日本の食卓はクリエイティブだ。書籍『「食」から考える発想のヒント』より
外国人シェフ最年少でミシュランガイドの星を獲得した松嶋啓介の近著がおもしろい。食を通した「発想のヒント」が散りばめられている。普段包丁を握らない人にこそ読んでもらいたい一冊だ。
以下、『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)より、抜粋して紹介。立ち読み感覚でドーゾ!
日本人は、誰もが編集者
ご存知のように、日本の食卓には何品もの料理が並びます。夕方につくった料理だけではなく、昨日の残り物もあれば、漬物やおひたしなど、毎日の常備菜もあります。それらは、フランス料理のように一皿ずつ順番に運ばれてくることはありません。
さらに、食卓には自分専用のお箸、ご飯、味噌汁、おかずを取り分ける小皿があり、全員に開かれた料理を好きにつまみ、そのつど吟味しながら食べ進みます。
じつは、このような食事の仕方は、
日本人特有のものなんです。
口の中が脂っぽいなと思ったら、漬物やお茶でリフレッシュし、おかずの味が濃かったら、ご飯をほお張って味覚の具合を調整する。このように、日本人はいちいち口内の味覚を調整し、自分で味わいを“編集”して、そのつど工夫しながら毎日の食事をしています。
けれど、海外では順番に料理が運ばれ、出てきた順番に料理を食べ進める。テーブルの上に並んだ料理を少しずつ、あちこちつまむということはまずありません。
日本の食卓に
民主主義あり!?
日本では、食卓に並ぶいろいろな料理、野菜も肉も魚介も、食べる人間が調味料や薬味を自分で調節して、適当なタイミングで口へ運び、お箸をご飯に往復させ、吟味しながら食事をする。そんな食習慣は、前菜や主食が順番に供される、いわば独裁的なテーブルではなく、何品もの料理が民主的にならぶ、日本の食卓でこそ可能な、極めてクリエイティブな行為だと思うのです。
日本人はひとつの味を同じように、一定の条件のもとで食べているわけでありません。繊細に風味と香りを聞き、味を見て、食感に触れ、毎日の食事を豊かな経験として、身体化してきたのです。