「うまみ」を構成する5本指のヒミツ。書籍『「食」から考える発想のヒント』より
外国人シェフ最年少でミシュランガイドの星を獲得した松嶋啓介の近著がおもしろい。食を通した「発想のヒント」が散りばめられている。普段包丁を握らない人にこそ読んでもらいたい一冊。
以下、『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)より、抜粋して紹介。立ち読み感覚でドーゾ!
普段口にする料理が
どのように味覚を構成しているか
ぼくの考える味覚は「甘味・酸味・苦味・渋味・辛味」の五つの味。ここに「塩味」が入っていないのは、他の味覚と同等に並列できるものではないからです。
「塩味」と「甘味」は、料理の味付けをするうえで、それだけで“強い味”といえます。ほかの「酸味」、「苦味」、「渋味」、「辛味」、「うま味」は、「塩味」や「甘味」と結びついて、はじめておいしいと思える、味付けとは別の“弱い味”。
では、普段口にする料理が、味覚をどのように構成しているのか?
その発想のヒントは“手”にあります。
この世のあらゆる料理は、塩気や塩分を基礎として、「五指」の味覚の組み合わせを「うま味」が支え、その味を決定しているんです。
親指を甘味、人差し指を酸味、中指を苦味、薬指を渋味、小指を辛味に見立ててみます。 それぞれの指先をくっつけてみてください。
●親指(甘味)と人差し指(酸味)で、柑橘系の甘酸っぱい味
●親指(甘味)と中指(苦味)で、キャラメル系の甘苦い味
●親指(甘味)と薬指(渋味)で、抹茶系の甘渋い味
●親指(甘味)と小指(辛味)で、醤油系の甘辛い味
この五指の組み合わせと調理から生み出される味の他に、うま味成分自体の「うま味」があり、このときの「うま味」は単体としてではなく、多くの場合、調理された味を受け止める役割を果たします。
冷蔵庫の残り物で適当な料理をつくるとき、どう料理したらいいのかは、この「塩味」や「甘味」のバランスと、他の「酸味」、「苦味」、「渋味」、「辛味」との結びつけ、さらには「うま味」の組み合わせにかかっています。“強い味”だけによる味付けだけでなく、“弱い味”との結びつけこそが重要なんです。
食材の栄養素やうま味成分などを知らなくても、味覚を構成する「手」に注目してみたら、ほぼ間違うことはない、料理の発想を与えてくれるはずです。