メキシコの「素朴なとんこつスープ」に衝撃!@下北沢
メキシコ料理におけるファストフードの代表格がタコスだとすれば、このスープは真逆に位置する存在。じっくり煮出して旨みを抽出した、ダシのように豊かな滋味。
下北沢「テピート」はメキシコ料理の懐の深さを教えてくれる。香辛料やチーズによるメリハリある味ばかりがメキシカンじゃない。
“垢抜けなさ”もまたメキシコ
滋味深いスープが沁みる
「ポソーレ」1296円(税込)
スープ皿が運ばれてきた瞬間、視界は湯気で遮られる。マグマのようにぐつぐつ煮立ったスープに驚いちゃいけない。後のせする生野菜で、いくぶん温度が下がることを考慮してのぐつぐつ。「ポソーレ」とはそういうスープだ。
豚のあばら、背骨、スネ肉をジャイアントコーンとともに丸2日かけてコトコト煮込む。垢抜けない野暮ったい味わい。けれど、どこまでも素朴なとんこつスープが、味蕾からダイレクトに細胞へ沁みわたっていく。まさに芳醇なダシのよう。
このままでも成立しているが、付け合わせの野菜やサルサを好き勝手にトッピングしたり、ライムを搾って味に抑揚をつける。これがまたいい。とたんに野暮ったさが消え、シャープに生まれ変わる。
パリパリとムチムチの中間
初体験の“歯ごたえ”を前菜に
「ソペス」1080円(税込)
前菜感覚で味わう「ソペス」もオススメ。タコスよりも一回り小さく、やや肉厚のトルティーヤをオーブンで焼き上げたこちらは、もそっとする歯ごたえに新鮮味を覚える。アメリカ由来のハードシェルに慣れた口ならなおさらだ。
完熟トマトの甘さ引き立つサルサだけなら物足りなく感じるところ、下に仕込まれたインゲン豆のペースト(フリホーレス)が、厚みのあるトルティーヤとフレッシュ野菜のブリッジになっている。だから過度にもそもそしすぎず、逆に水っぽくもならない。
ワカモレ、サルサ、トルティーヤ。オーソドックスな組み合わせのなかにも、メキシコ料理の多様性を見せられる一品だ。
メキシコ人にノスタルジアを抱かせる味
過度な飾り付けをせず、余分な味付けをせず、添加物も使わない。オーナー滝沢 久美氏のこだわりは、“らしい味”でも、“〇〇風”でもない、あたたかなメキシコ家庭そのものの表現。
そのテピートの味を、ずっと側で支え続けてきた陰の立役者がもう一人。もっとも手厳しい食べ手、ミュージシャンであった夫チューチョ・デ・メヒコさんだ。
祖国を離れ、世界各地をツアーで回る夫に懐かしい味を食べさせてあげたい。いつかメキシコ料理で店を開きたい……けれど料理を口にしても、チューチョさんはなかなか首を縦には振ってくれなかったそうだ。
「模倣は絶対に許さない人。誰に食べさせるよりチューチョの味見が怖かったの」。
人前に出すものが模倣であってはいけない。妥協のないジャッジはアーティストの矜持だったのかもしれない。現地の味を咀嚼し、因数分解して再定義する。本物の探求の末に体得したのは、メキシコの食文化そのものだった。
厳しくも最愛の食べ手は2016年に他界。けれど、今も噂を聞きつけて下北沢を訪れるメキシコ人たちが、その味に故郷を懐かしんでいる。
一軒家を改装したレストラン。玄関ドアを開くのは勇気がいるが、家族のようなホスピタリティでもてなしてくれる。友人宅を訪れる気分で肩肘張らずにくつろごう。
「テピート」
TEL:03-3460-1077
営業時間:18:00~22:30(L.O.22:00)
定休日:月曜、火曜
HP:https://www.tepito.jp/