NYCを知り尽くした伝説のメッセンジャー「カート・ブーン」に直撃インタビュー
東京・原宿の「CHROME TOKYO HUB」にて開催のイベント「BEYOND THE SCENE」「MESSENGER MUSEUM」のためにNYCから来日した、メッセンジャー界のレジェンド、カート・ブーン氏に、メッセンジャーのリアルな日常や氏が生み出すアート、そしてメッセンジャーカルチャーとファッションについてインタビュー。
「重要だけど、重要じゃない仕事」
それがメッセンジャーなんです。
──簡単に自己紹介をお願いします。
カート・ブーンです。仕事はメッセンジャーと作家で、今、59歳です。
1978年にメッセンジャーをはじめて、何度か違う仕事に就いたりもしましたが、2001年からはフルタイムでずっとこの仕事をしています。
高校生のときは陸上競技の選手でした。100メートルと200メートル、あと400メートルを走っていて、メッセンジャーの会社が、NYCをものすごいスピードで駆け抜けられる人を探していることを知って、郵便配達の仕事をしていたお父さんの影響もあってパートタイムでメッセンジャーをはじめました。
コミッション(報酬)も魅力でした。
──コミッションはいくらでしたか?
1990年代で時給7ドル(700円前後)くらい。NYCの最低賃金の少し上くらいだと思います。
──カートさんはバイク(自転車)を使わず、徒歩や地下鉄を使って荷物を運ぶフットメッセンジャーとのことですが……。
NYCには、とても大きなメッセンジャーの需要があって、様々なクライアントがいます。ときには、200万円もするようなドレスを特定の場所に運んでほしいというような依頼もある。
クライアントは、ドレスを大切に扱ってほしいから、僕のようなフットメッセンジャーに依頼をする。NYCは地下鉄が発達しているから、それをうまく利用すれば、バイクを使う必要はないんです。
バイカー(※自転車を使うメッセンジャー)にはバイカーの、フットメッセンジャーにはフットメッセンジャーの得意な仕事があるんです。
自転車は好みじゃないけど、僕もバイクに乗ることはできます。でも、僕がなりたいのはバイカーではなく、フットメッセンジャーなんです。
それと、メッセンジャーの仕事は荷物を運ぶだけじゃないんです。
──と、いうと?
アプリケーションのプログラムのテストです。「eBay Now」「Uber」「Zipments」を開発している会社が、僕たちメッセンジャーを雇ってアプリケーションのテストをするんです。
でも、シリコンバレーを拠点にしている会社が想像できないほどの金額を費やして開発したものが、すべてうまくいくとは限らない。
世の中には、予想外の事態がたくさん転がっています。
それに対応できるのは──人間の勘や経験や技術も含めた、人間の力なんです。
──カートさんは、これまでに、そんな「人間の力」を感じさせる写真集を何冊も出版されていますね。
最新作は、今回「CHROME TOKYO HUB」のイベントに呼んでもらうきっかけにもなった『THE CULTURE OF MESSENGER BAGS』です。メッセンジャーを撮ったり、メッセンジャーコミュニティを撮影しています。あと、メッセンジャーバッグも。
メッセンジャーバッグは、それぞれがすごくカスタムされていて、それぞれがスタイルをもっています。すごくパーソナルな魅力に溢れているんです。
──写真集のテーマは?
『THE CULTURE OF MESSENGER BAGS』も含めて、これまでに7冊の写真集を出していますが、ほとんどがメッセンジャーという“仕事”にフォーカスしています。
仕事といっても、決して大きなお金を稼げる仕事ではないんですが……。
メッセンジャーは「重要だけど、重要じゃない仕事」です。
重要なのは、荷物をもっているときで、配達が終わったら、重要ではなくなる。
でも、僕はメッセンジャーという仕事が好きで、誇りをもっています。だから、メッセンジャーは特別なんだと伝えたいんです。
──メッセンジャーの仕事を辛く感じることは?
もちろんあります、28歳や29歳ではないから。
でも、まだまだできると思っています。しかも、僕は誰よりもNYCの道を知っています。目的の場所に、僕より早くたどり着けるフットメッセンジャーを、僕は知りません。
あ、僕たちメッセンジャーは大きな、すごく大きなオフィスで働いているんですよ? この意味がわかりますか?
──大きなオフィス……ですか?
ええ、答えは「ストリート」です。
──なるほど(笑) ちなみに、写真を撮りはじめたのはいつからですか?
10年くらいまえからです。
友人から「キミはメッセンジャーとして、普通の人が見ていないものをたくさん見ているから、きっと世界に一枚だけの写真が撮れるはずだ」っていわれたのがきっかけです、「下手かどうかなんて関係ない。撮り続けるんだ」って。
──カートさんの活動に代表されるような、メッセンジャーカルチャーとアートの関係性について教えてください。
メッセンジャーとアートの関係性は、僕の経験でしか語ることはできません。でも、メッセンジャーカルチャーとファッションは大きく関係していると思います。
まず、ファッションブランドとマーケターはヒップホップのアーティストに目をつけ、それからスケートボーダーに目をつけ、20年くらいまえにメッセンジャーに注目しました。
メッセンジャーは、多くの人の目に触れる仕事です。僕たちは、ストリートファッションのシーンにおけるインフルエンサーなんです。
──それでは最後に、メッセンジャーという仕事のなかで「最高の瞬間」と「最悪な瞬間」を教えてください。
まず「最悪な瞬間」は存在しません。この仕事が楽しいし、誇りをもっているからです。
「最高の瞬間」は、いろいろなことを知れて、いろいろな人に出会えたとき。だから僕はバイクは使わず、自分の足で一歩一歩を歩いて荷物を届けるんです。
NYCを自分のペースで味わいながら……。
「BEYOND THE SCENE」
【日時】2019年4月19日(金)19:00〜21:00
「MESSENGER MUSEUM」
【日時】2019年4月20日(土)〜4月30日(火)11:00〜20:00
【会場】ともに「CHROME TOKYO HUB」東京都渋谷区神宮前6-11-1