ドイツから学ぶ。環境に優しい家に必要なモノとは。
地球に優しいことは、心にも気持ちがいいものですよね。
SDGsが盛んに取り上げられるようになったことをはじめ 、「これからの暮らし」を考えていくうえで、多くの人が環境に優しい選択を意識するようになってきたと思います。でも、環境のために無理をしていたらきっと続けられない。
だから普段の生活のなかに取り入れやすいことというのが大切なのだと思います。
今回、そのヒントを探すために注目したのがドイツ。水力、風力などの再生可能エネルギーの利用率が高く、環境先進国として日本でもよく知られています。 そんなドイツでは環境意識と日々の生活はどのようにリンクしているのでしょうか。 実際にミュンヘンで暮らしているドイツの方にインタビューをして、リアルなライフスタイルをリサーチしてみました。
ビョルン・アイヒシュテットさん
ドイツのミュンヘンでヨーロッパ主要都市、北京と東京にパートナーエージェンシーを持つPR会社を経営している。息子さんの名前を「kenji」と名付けるほどの日本好きで、テクノロジーや文化を深く知るために過去40回以上も日本を訪れている。自宅には日本庭園を模した庭もあるそうで、日本とドイツ両方の文化を取り入れた暮らしを実現している。
「長く使えるいいものをチョイスすること」がドイツ人の考え方
──ドイツは環境先進国として世界的に知られていますが、環境についてどのように啓発されているのですか?
環境問題への啓発は、まず学校で基本的なことを学ぶことから始まっています。ドイツでは、今地球がどんな状態で、大気汚染やゴミ問題が深刻であることや、再生可能エネルギーを増やしていかなければならないことなど、50年ほど前から環境を意識した教育の必要性を打ち出しています。
学校だけでなく、日常の会話でも環境問題について触れることが多く、みんなが自分達にできることを探したり、実際に行動してみることが頻繁にあるように思います。
──「日常的に自分で考えて行動してみる」というと、例えば?
色々ありますが……うちの会社でも環境問題について話すことは多く、通勤スタイルについて見直してみようということになりました。
なるべく車移動を控えるようにして、今では多くの社員が自転車を積極的に使うようになっています。
──たしかに、「毎日出来ること」からフォーカスするのは大切なことですね。何か商品を購入するときにも、環境について意識しているのでしょうか?
ドイツでは「安い家具や安い服を買って消費するのではなく、長く大切に出来るものを買ったほうがいい」という考えを持っている人が多いです。今も妻の祖母から受け継いだカップを大事に使っています。
購入時の値段だけ比べたら安い買い物ではなくても、「長く使えること」を考えると、結果的にはコストパフォーマンスが良いので。
──なるほど。コストパフォーマンスを重視した結果、環境意識も高くなる、というつながりもありそうですね。
そうですね。ソーラーパネルなど家でエネルギーを作ろうという人が増えていて、もしも、すべてが切り替われば、電気料金などエネルギー関連コストが低くなることになります。環境を良くしたいという気持ちはもちろんありますが、生活のコストを抑えることにつながっているので意識を常に高く持っていられる。
そういう面も含めて、「暮らしと環境問題は常に密接である」という実感が強いように思います。
家を選ぶ大きなポイントになるのが「窓」
──暮らしと環境問題が密接であるということでしたが、家を選ぶ際に注目するのはどのような部分ですか?
ドイツでは家を買ったり借りたりするときに、エネルギー証明書※が必要なんです。なので必ず、住む前にその家のエネルギーコストはみんな厳しくチェックしていると思いますよ。
証明書を確認することで、自分たちの住む家がどのくらい環境に配慮しているか、コストパフォーマンスが高いかを家族で確認できるので、意識が高まる理由のひとつにもなっていると感じます。
※エネルギー証明書(Energieausweis):年間に消費する1㎡あたりのエネルギー量をkWhで表示しエネルギー効率をA+~Hでランク付された建物の燃費(断熱性能)に対する評価基準。ドイツでは住宅の売買や賃貸時には提示が義務化されている。
──ミュンヘンの冬は寒いと聞きます。
はい。ミュンヘンの冬は-10℃近くまで冷え込むこともあり、基本暖房はセントラルヒーティングで、
──なぜ「窓」に関心が高いのでしょうか?
大きな窓があって、解放感のある部屋がドイツ人には特に好まれるんです。快適に過ごすために、『空間』を大事にしている人が多いからでしょうね。
個人の空間が窮屈ではストレスを感じるので、友人の家やいろいろなオフィスを見ていても、天井が高かったり、窓が多いです。そのぶん寒い冬を越すのに暖房費がかさむので、温めた空気を逃さないためにも部屋の断熱性は重要になります。
とりわけ窓辺は寒くなりがちなので、ドイツ人は窓の断熱性に対する関心を高く持っていると思います。
僕は断熱性の高い樹脂窓の家に住むようになってからは、冬でも窓辺で極端に寒さを感じることもなく、結露もなくて特に快適に感じています。実家は樹脂窓ではなかったのですが、お風呂の結露が窓枠の溝に溜まり、凍ってしまってスムーズに窓が開けられなくなることが多かったんです。
──なるほど、たしかに結露が凍ってしまうと、氷を溶かしたり削ったりするのが大変そうですよね。
そうなんです。
ドイツの建物は日本よりも窓が多いので、凍ってしまうと処理が大変です。
──えっ、日本の建物は窓の数が少ないですか?
ドイツに比べると少ないと思います。もちろん壁側には窓があるけど、会社では会議室にはないことも多いと感じています。
窓の少ない日本のオフィスを訪れたときに、日本ではあまり「換気」することがないのかな?と感じました。
──「換気」ですか。空気が悪いと感じたときには、窓を開けますが…1日窓を開けない日もあるかもしれません。
換気は、仕事の効率を上げるためにも重要だとドイツ人は感じています。空気が淀んでいると、頭の回転が遅くなったり、アイデアが浮かびにくくなる要因のひとつにもなると思うので。
ドイツでは、「シュトースリュフテン」という単語もあり、いくつかの窓を少しの間全開にして、一気に空気を入れ替えることを指します。
──「窓を開けて空気を入れ替えること」を指す単語もあるんですね!ドイツでは、室温調節も主に窓で行う、と聞いたことがあります。
そうです。
基本的に、夏の室温調節はエアコンに頼るのではなく窓で行っています。ドイツでは、真夏でも20℃前後でそこまで暑くならないので、エアコンのない家やオフィスも多い。
熱がこもりすぎたり、寒くなりすぎないように窓の開閉をして、常に室温調節することが大切だって考えを持っているので、「居心地の良い空間」と「窓」は切っても切れない関係なんです。
「樹脂窓」ってなに?
ビョルンさんの生活を快適にしている「樹脂窓」は、樹脂素材でつくられた窓のことで、アルミ窓よりも“断熱性能が高い”というのが特徴です。
「樹脂窓」の普及率を見比べてみると、ドイツが64%であるのに対して、日本は20%。環境への意識が全体的に高く、一般住宅にも厳しい省エネ基準が求められているドイツでは、熱貫流率の優れた樹脂窓が多く採用されています。
ドイツの他にもアメリカやフランスなど世界のいろいろな国で樹脂窓が使われています。さらに日本と気候が近い中国や韓国でも日本より樹脂窓の普及率が高くなっているんですよ。
夏は熱の多くが窓から室内に流入し、冬は窓から室内の温かさの半分近くが逃げてしまっているため、住宅全体の省エネ率を高めるためには、窓の断熱性を高めることが最も効果的なんです。
ビョルンさんのインタビューからドイツの人々の暮らしを知ることで、「窓について考えてみること」によるメリットが見えてきました。
普段の暮らしの中では、なかなか意識することのなかった「窓」。
日本では環境への優しさを考えるとき、エアコンなどの室温調節の温度を何度にするのか?が注目されがちですが、「窓」そのものを見直すことが、人々にも環境にも優しくて持続可能な解決方法の近道になるように思いました。
「樹脂窓」の普及率を、20%から30%、40%と少しずつ増やしていくことは、環境に優しく、快適な住まいにつながると考えてよさそうです。