もう電話は繋がらなくても……。大切な人に「想い」を伝えるウィンドフォンとは
大切な人を失った悲しみ、喪失感は、時として乗り越え難いものだ。かつては葬儀や法要など、形式的な儀式が、悲しみを癒すための主な手段だった。しかし、コロナ禍で従来通りの儀式が困難になり、新たなグリーフケアの必要性が高まっている。
そんななか、静かなブームとなっているのが「ウィンドフォン」だ。
日本生まれのグリーフケアが世界に広がる
米メディア「The Conversation」によると、ウィンドフォンとは、自然の中に設置された電話回線に繋がっていない電話ボックスのこと。
公園や遊歩道、教会など、静かで穏やかな場所に設置されていることが多い。使い方は至ってシンプルで、電話ボックスの中に入り、受話器に向かって故人への想いを語りかける。もちろん電話は繋がっていないため、相手の声が聞こえることはない。しかし、風の音や鳥のさえずりをBGMに、まるで故人と会話しているかのような感覚を味わうことができるという。
じつはこのウィンドフォン、興味深いことに2010年に日本で生まれていた。
庭師の男性が、亡くなった親戚と「話す」ために、自身の庭に電話ボックスを設置したのが始まりだという。そして、2011年、東日本大震災で2万人以上が犠牲になったことをきっかけに、ウィンドフォンは日本中に広がっていった。「The Conversation」は、この出来事について「数分のうちに2万人以上が亡くなった。そして、ウィンドフォンは、大切な人を亡くした人々が悲しみを表現するための場所として、日本中に広がっていったのだ」と説明している。
ローテクだからこそ伝わるもの
ウィンドフォンが支持される理由
デジタル化が進み情報過多となった現代社会において、一見時代遅れにも思えるウィンドフォンが、なぜこれほどまでに人々の心を捉えるのだろうか。そこには、デジタルなコミュニケーションでは満たされない、人間の根源的な欲求があるように思える。
ウィンドフォンは、故人との「対話」を通して、悲しみや喪失感を吐き出し、心を整理する場所を提供してくれる。デジタルツールのように即レスを気にする必要もなく、自分のペースで、自分の言葉で、想いを伝えることができる。また、自然の中に身を置くことで、心身のリラックスも期待できる。
ウィンドフォンの効果は、科学的に証明されているわけではない。しかし、「心が軽くなった」「故人と繋がっていると感じられた」といった体験談が数多く寄せられているという事実が、その効果を物語っていると言えるだろう。
デジタル全盛の時代だからこそ、ローテクなコミュニケーションツールが見直されている。ウィンドフォンは、グリーフケアの新たな可能性を示す、象徴的な存在なのかもしれない。
👀GenZ's Eye👀
家族や友人にも哀しみを打ち明けづらい……。大切な人を亡くしたらそう思う人は少なくないはず。自分の近況でもなんでもいいから、穏やかに「話しかけてみる」ことで心の整理がつきやすくなるのかもしれません。