35円のバナナが、のちに9億円のアートとして落札。でも、現実はバナナのように甘くない……
今年11月、マイアミで開催されたアートフェアにおいて、「壁にバナナを貼り付けたアート作品」が約9億円で落札され話題となった。
想像もできない価格に世界が騒然とするなか、のちに使用されたバナナがニューヨークの露店でわずか35円で売られていたものだと発覚し、それがさらなる波紋を呼ぶことに……。
露店の店主が見る、35円と9億円の現実
「ARTnews JAPAN」によれば、話題の作品『Comedian』を手掛けたのは、イタリア人芸術家マウリツィオ・カテラン氏。そして、9億円という巨額で落札したのは、中国の大富豪ジャスティン・サン氏だ。
一瞬で全世界から注目を集めた1本のバナナは、前述の通り35円で購入されたものであることが判明。
バナナを売った74歳の露店主シャ・アラム氏は、バングラデシュからの移民で、12時間の交代制で働き、時給はわずか12ドル。地下室の狭いアパートで、ギリギリの生活を送っていると同メディアは伝える。9億円という金額に、アラム氏は「私は貧しい人間です。このような大金は持ったことも見たこともありません」と涙したという。
善意のバナナ10万本
はたして、真の解決策なのか?
アラム氏の言葉を受け、落札したサン氏は感謝の気持ちを示そうと彼の露店でバナナを10万本購入し、無料で配布することを表明。
シャ・アラム氏に感謝するため、私はニューヨークにある彼のスタンドで10万本のバナナを買うことにしました。そしてこのバナナを、彼の露店で世界中に無料配布します。身分証明書を提示して、バナナ1本を受け取ってください。
一見夢のある話に思えるが、アラム氏を取り巻く現実はそう甘くはなかった。
彼は「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して「10万本、(約376万5000円)相当のバナナを購入してくれたとしても、さまざまなコストを差し引けば純粋な利益は約90万円程度しか残らない」と話している。さらに、そもそもこのフルーツスタンドはアラム氏のものではないため、この露店のオーナーの意向で、利益は数人で山分けされる予定のようだ。
それに加えて、「ニューヨーク・タイムズ」の記事で現状を知った読者がクラウドファンディングを開始。現在約300万円が寄付されているという。
輝かしいアート市場の影で、貧困に喘ぐ人はアラム氏だけに限らない。アートはどうあるべきなのか。現代アートの価値とその裏側に潜む社会構造、そして情報化社会における影響力と責任について、この一連の話題は私たちに多くの問いを投げかけている。