Z世代が再定義する、ショッピングモールの「新しい価値」
コロナ禍を経て、小売業界ではECサイトの需要が急増し、実店舗の存在意義が問われている。特に、かつては若者文化の象徴だったショッピングモールは、大きな転換期を迎えていると言えるだろう。しかし、アメリカでは意外な世代がショッピングモールに回帰し、新たな賑わいを見せているという。一体、そこにはどんな理由があるのだろうか?
デジタルネイティブ世代の意外な選択
アメリカのショッピングモールが再び活気を取り戻しているのは、Z世代と呼ばれる若者たちによるものだ。ロサンゼルス・タイムズ紙が報じている。1990年代後半から2010年代初頭にかけて生まれた彼らは、デジタルネイティブ世代とも呼ばれ、幼い頃からインターネットやスマートフォンに慣れ親しんできた世代である。
従来の考え方では、デジタルネイティブ世代はオンラインショッピングを好み、実店舗での買い物には興味を示さないと思われていた。しかし、International Council of Shopping Centers(ICSC)が2023年に行った調査によると、Z世代の97%が実店舗で購入し、95%が利便性からオンラインショッピングを利用しているという。
さらに、マーケティング会社CM Groupとリテールコンサルティング会社F'innが2022年に行った調査では、Z世代の47%が、他のどの世代よりも実店舗でのショッピングを好むと回答している。デジタルネイティブ世代であるZ世代は、必ずしもオンラインショッピングだけを好んでいるわけではないことを、これらの数字は如実に物語っている。
「つながり」を求めて、リアル空間へ
では、なぜZ世代はショッピングモールに回帰しているのだろうか? その背景には、デジタルネイティブ世代ならではの事情があるようだ。
彼らが幼少期から慣れ親しんできたデジタル世界は、無限の情報と繋がる一方で、時に孤独感を増幅させる側面も持ち合わせている。SNSの普及による常時接続のストレスや、情報過多による疲弊など、デジタル世界の負の側面が指摘されて久しい。
「Z世代は非常に孤独な世代であり、より多くの社会的交流を必要としているというデータはたくさんある。(Z世代は)他の世代よりも、外出や人との交流を通じて得られる経験から恩恵を受けるだろう」
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスのステファニー・タリー助教授は、こう指摘する。デジタルネイティブ世代であるZ世代にとって、ショッピングモールは商品を購入するだけの場所ではなく、友人と会ったり、食事を楽しんだり、イベントに参加したりと、リアルなコミュニケーションを体験できる貴重な場となっているのだ。
「モノ消費」から「コト消費」へ
Z世代の消費行動を語る上で欠かせないキーワードの一つに、「コト消費」がある。商品やサービスそのものよりも、そこで得られる経験や感動、満足感といった「コト」にお金を払う価値を見出す価値観だ。
ICSCの調査によると、Z世代の回答者の60%が、物質的なものよりも経験にお金を使いたいと回答している。また、約70%が、小売店やショッピングセンターは楽しい集いの場を提供していると回答しており、彼らがショッピングモールに「コト消費」の場としての魅力を感じていることがうかがえる。
ショッピングモール側も、そうしたZ世代のニーズをいち早く察知し、従来の物販中心のビジネスモデルからの転換を図っている。たとえば、最新のエンターテインメント施設や体験型アトラクションを導入したり、地域密着型のイベントを企画したりすることで、顧客の滞在時間を延ばし、ショッピング以外の楽しみを提供することに力を入れている。
Z世代の価値観が変える、未来の小売体験
デジタルネイティブ世代であるZ世代は、オンラインとオフラインの境界線を曖昧にし、それぞれのメリットを享受しながら、より自分らしい消費行動を展開している。
企業は、彼らが求める体験価値や社会貢献への意識を理解し、共感を得られるブランド戦略を構築していくことが、今後の成長には不可欠と言えるだろう。そして、ショッピングモールは、単なる消費の場から、Z世代の価値観を反映した、新たなコミュニティスペースへと進化していく可能性を秘めているのかもしれない。