「自分より、うちの子」──95%の飼い主が守るペット支出という“聖域”
世界的な動物用ヘルスケア企業Elanco Animal Health(エランコ)が、米国のペットオーナー1,409人を対象に実施した最新調査の結果を発表しました。そこから浮かび上がったのは、経済的な逆風の中でも「ペットへの支出だけは削らない」という飼い主たちの揺るぎない意志。家計の優先順位が、静かに、しかし確実に書き換わっています。
91%が「支出を減らさない」
同社が2026年5月末に行った調査によると、91%のペットオーナーがペットの健康・ウェルネス製品への支出を少なくとも維持しており、38%はむしろ増やしていると回答しました。生活費の上昇が続く中でも、31%が「過去3カ月でペット関連の支出を増やした」と答えています。
さらに注目すべきは、今後の見通しです。90%のオーナーが、向こう1年間の支出は現状維持か増加と見込んでおり、そのうち37%は「さらに増やす」と回答しました。燃料価格の高騰前に実施された2月時点の調査とも整合しており、一時的な感情ではなく構造的な変化であることがうかがえます。
外食や旅行より先に守る
95%のペットオーナーが「ペットの健康ケアは経済的圧力があっても削減しない優先事項」と認識していることも、今回の調査で明らかになりました。個人的な財政難に直面した場合、飼い主たちは外食や旅行といった自分自身への支出をペット関連費よりも先に削ると回答しています。調査対象となったすべてのカテゴリの中で、ペットの健康・ウェルネスは「最後に削減される項目」だったとのことです。
この結果は、ペット関連支出がいわゆる「裁量的支出」──つまり余裕があるときだけ使うお金──ではなくなっていることを示しています。エランコの執行副社長Bobby Modi氏は「ペットケアは裁量的支出ではなく、深い感情に基づく高優先度の投資だ」と述べました。
家計の中で「削れる支出」から「削れない支出」へ。この心理的カテゴリの移行は、ペット産業に強固な不況耐性をもたらしているようです。実際、動物用ヘルスケア産業は過去20年間にわたり年平均約5%の継続的成長を記録しており、エランコの推定では2025年に業界全体で7%の成長を達成。市場規模は2025年の420億ドル(約6兆円超)から、今後10年で600億ドル規模に拡大すると予測されています。
「家族化」が変えた家計の構造
こうした消費行動の背景にあるのは、ペットの「家族化」という感情的な変化です。調査では88%のオーナーが「ペットの幸福とウェルビーイングは自分自身のものと同等に重要」と回答しました。
エランコは、子どもの数が減りペットが増える社会的潮流の中で、オーナーがペットにより長く健康的な生活を求めるようになり、ケアへの期待と投資意欲が高まっていると分析しています。これは米国に限った話ではありません。日本でも少子化が進む一方でペット飼育世帯は根強く存在しており、「うちの子」という表現に象徴されるように、ペットを家族の一員として捉える意識はすでに広く浸透しています。
興味深いのは、こうした感情的な結びつきが、消費の合理性を超えた意思決定を生んでいる点でしょう。従来の経済学では、不況時に真っ先に削られるのは「なくても生きていける支出」でした。しかしペットケアは、物理的には必需品でなくとも、心理的には「なくてはならないもの」になっている。いわば「感情的必需品」とでも呼ぶべき新しいカテゴリが、家計の中に生まれつつあるのかもしれません。
変わるペットケアの届け方
消費者の意識変化に呼応するように、ペットケアの届け方も進化しています。現在、ペットケア製品の販売の約40%がサブスクリプション型で行われているとのこと。一方で、米国ペット製品協会(APPA)の2024年調査では、犬・猫オーナーの約3分の1が過去1年間にペットを獣医に連れて行っていないという実態も報告されています。
つまり、飼い主はペットの健康にお金を惜しまないけれど、その支出先は必ずしも動物病院ではなく、オンラインやサブスクを通じたセルフケアへと広がっているわけです。エランコはこうしたオムニチャネル化の流れを踏まえ、多様な価格帯・購買チャネルでソリューションを提供していく方針を示しています。
「ペットにかけるお金は最後まで守る」──この飼い主たちの静かな決意は、単なる消費トレンドを超えて、私たちが何を「大切なもの」と感じているかを映し出す鏡のようです。家族のかたちが多様化する時代に、その優先順位もまた、柔らかく、しかし確かに変わり続けています。






