「モンブランを飲む」ような一杯? 廃棄される栗から生まれた能登発クラフトビールの挑戦

金沢クラフト合同会社が発表したプレスリリースによると、能登半島地震からの復興を目指す新たなクラフトビールが、静かに、しかし確実に話題を集めています。その名も「能登栗クラフトビール」。規格外として廃棄されてきた小さな栗が、一杯のビールに姿を変え、被災地と飲み手をつなぐ存在になりつつあるのです。

「捨てる栗」が生まれる構造

能登栗は、国産栗の年間生産量約14,000トンのうちわずか0.71%しか市場に出回らない希少な存在です。能登地域では毎年約100トンが収穫されるものの、そのうち約2割にあたる量が、小ぶりだったり傷があったりという理由で「規格外」として廃棄されてきたといいます。

こうした食品ロスの問題は、能登に限った話ではありません。日本各地の農産物で、味や栄養には問題がないのに見た目だけで弾かれてしまうケースは珍しくないでしょう。ただ、能登の場合はそこに震災という深刻な事情が重なりました。建物の倒壊、観光客の減少、農業基盤の損壊。それでも栗農家は真夏の炎天下で苗木に水をやり、草を刈り続けていたそうです。

その現実を前に動いたのが、金沢クラフト合同会社の代表社員・本多隼人氏でした。石川県出身の本多氏は、JR東海に約10年間勤務していましたが、能登半島地震を契機に退職し起業を決意。廃棄されていた規格外栗をペーストに加工し、クラフトビールの原料として100%活用する仕組みを、協力農家である橋本栗園とともに築き上げました。

「モンブランを飲む」体験

©金沢クラフト合同会社

気になるのは、やはりその味わいです。同社の発表によれば、能登栗を100%使用したこのビールは、まろやかで芳醇な風味が特徴。香ばしい栗の香りがふわりと広がり、苦味が少ないため、ビールが得意でない方や海外からの観光客にも好評だといいます。

試飲した人からは「まるでモンブランを飲んでいるかのよう」という声も寄せられたとのこと。さらに、金沢名物の金箔をあしらうことで、見た目にも華やかな一杯に仕上がっています。SNS映えを意識した演出でありながら、土地の文化をきちんと纏っているところに、単なる「映え商品」とは一線を画す誠実さを感じます。

実際、2025年春に300本限定で販売した第一弾は数日で完売。東京・群馬・石川の飲食店6店舗でも提供されました。その後も、石川県主催の震災復興応援イベント「のともっとMARCHE」や「金沢百万石まつり」での限定販売がいずれも完売を記録しており、反響の大きさがうかがえます。

「飲む支援」から産業へ

©金沢クラフト合同会社

近年、被災地の産品を購入することで復興を後押しする「買って応援」の動きは広く浸透してきました。ふるさと納税やクラウドファンディングを通じた支援も一般的になりつつあります。けれど、一過性の善意だけでは地域経済の持続的な回復にはつながりにくいという課題も、しばしば指摘されるところです。

金沢クラフト合同会社が掲げるビジョンは、まさにその壁を越えようとするものではないでしょうか。同社は補助事業の採択を受け、2026年夏に石川県穴水町へ恒常的な栗ペースト加工拠点を新設する計画を進めています。3カ年の事業計画では、初年度に規格外栗約4トンを集荷してペースト約2トンを製造し、洋菓子店などへのBtoB販売も含めた年間売上1,160万円規模を目指すとのこと。3年目には取扱量6トン、売上目標1,740万円まで拡大し、地元での雇用創出も見据えています。

「原料を出荷するだけの地域」から「価値を生み出す地域」へ。同社が掲げるこの転換は、言い換えれば「飲む支援」を「自立する産業」へと昇華させる挑戦です。

一杯に込められた物語

廃棄されるはずだった小さな栗が、ペーストになり、ビールになり、誰かの乾杯になる。その一連の流れには、フードロス削減、農家の収益改善、被災地の雇用創出、そして地域ブランドの再構築という複数の社会課題への回答が重なっています。

もちろん、事業はまだ始まったばかり。規模の拡大や安定供給の実現には、これから乗り越えるべきハードルも少なくないはずです。それでも、「捨てられていたもの」に新しい価値を見出し、それを持続可能なビジネスとして成立させようとする姿勢には、復興のひとつの理想形が見えるように思えます。

次にクラフトビールを手に取るとき、その一杯の背景にある物語に少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

Top image: © 金沢クラフト合同会社
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