廃棄パンから生まれたビールだから名前もそのまま「TOAST」
いまやビールに求められるものは、のど越しよりも、ワインでいうところのテロワール(産地の個性)や、つくり手のアイデンティティのようなもの。クラフトのなかでも小規模なマイクロブルワリーになればなるほど顕著で、消費する側としてもそれを軸とした味くらべがオモシロい。
ここに紹介する「TOAST」もそのひとつ。ビール造りで世の中に貢献するアイデアと、「最後は自社ブランドがなくなることがゴール」と公言する潔さ。真の狙いはゼロ・ウェイストにある。
捨てられるパンを材料に
フードロスをおいしく解決するビール
ロンドンの小規模ブルワリーTOASTで造るビール、その名の通り材料に使われているのは「パン」。それも町のベーカリーで売れ残ったものや、製造業者がサンドイッチ用にカットしたパンの耳など。つまりはゴミとして捨てられるはずだったもの。
TOAST創設者であり、作家、活動家としても知られるトリストラム・スチュアートによると、現在イギリスの食品廃棄量は年間1,500万トンを超え、なかでもパンの廃棄がそのワーストだとか。生産されたうちのじつに44%が廃棄に回るという、悪循環に目をつけたのが、捨てられるパンを使ったビール造りだった。
ところで、パンをビール造りに用いるという製法、古代エジプトでは紀元前2,000年よりも前からすでに、食用の大麦パンを使って醸造していたことがうかがえる記録が残っている。
TOASTもこれにならってパンに大麦麦芽、イースト、ホップ、水を加えてビールを仕込んでいく。ヨークシャーのHambleton Alesをはじめ、UK各地のマイクロブルワリーとコラボしながら出来上がったのが、オリジナルの「Toast Ale」だ。ちなみに、現在新たな仲間として「IPA」と「Craft Lager」も開発中だとか。
実際、どんな味が楽しめるのかは、飲んでみないことには。でも、パンだってそもそもは小麦がメインなことを思えば、合わないことはないはず。
レシピを無料で共有
真の狙いはこのビールがなくなること?
トリストラムの言うように、本来ならば余剰をつくらないことが大前提。けれど、そうもいかない現実を前に、廃棄パンでビールをつくるという、イギリス人からしてみれば究極とも思えるサステイナビリティを実現したことに、このビールの大きな意味があるんじゃないだろうか。
と言っておきながら、今こうした廃棄パンを材料にした“サステイナブルビール”はドイツやアメリカでも。つまり、このTOASTもフードロスの決定打となるような目新しさをウリにしたいわけじゃないらしい。
それというのも、彼らは公式サイトでレシピを無料公開し、世界中のブルワリーでも余ったパンを使ってのビール造りを呼びかけるのだ。たとえば、こんな感じに。
①パンを十分乾燥させ、クルトン状に粉砕
②穀物を67.7℃の湯で溶いて発酵
③麦芽にお湯を吹きかける
④ボイルしてホップを追加
自らのレシピをオープンソース化してでも伝えたいビールの製法。彼らの意図は「廃棄パンからビールをつくろう」を広く浸透させることで、食料システムの見直し図ること。ひいてはこのToast Aleが世の中から不要となくなることが、本当の意味でのゴールと捉えている。
多少ニュアンスは違うかもしれないが、これもこれで期間限定(希望的観測)のビールと呼べなくもない、のでは?
売り上げだってムダにしない
さらにさらに、ビールの収益すべてを食品廃棄問題解決に向けて活動を続ける支援団体「Feedback」に寄付するという徹底ぶり。タダでもらった余剰パンをの売り上げが、ゼロ・ウェイスト推進のための活動に使われる。「食料を捨てる代わりにもっと意味のあることができる」と、トリストラムはどこまでも前向きだ。
買うことでも、飲むことでも、目に見える形でフードロス削減に貢献できる、うれしい仕組みをクラフトビールが担うというのが、いかにもイマドキな感覚ではないか。