田んぼから猟場、そして食卓へ。保育法人が23年かけて描いた南魚沼の未来

どろんこ会グループが、新潟県南魚沼市にジビエ解体加工施設とクラフトブルワリーを併設した複合施設「南魚沼ブルワリー・ジビエ(MUBG)×焚火の台所」を2026年9月4日にグランドオープンすると発表しました。

保育法人がなぜジビエとビール?──その疑問の答えは、23年間の物語の中にあります。

田植え体験から23年
保育法人が「命のフードロス」にたどり着くまで

田んぼで泥だらけになりながら手作業で田植えをする子どもたち
© 社会福祉法人どろんこ会

始まりは2003年、子どもたちの田植え体験でした。

「にんげん力。育てます。」を理念に掲げるどろんこ会グループは、保育事業を中核に約200施設を運営する社会福祉法人です。南魚沼との縁は、子どもたちに本物の田んぼを体験させたいという思いから生まれました。

やがてグループは、使い手のいなくなった中山間地の耕作放棄地を自ら引き受け、米づくりを始めます。現在では東京ドーム約9.1個分の田んぼで年間約106トンの給食米を自給しているというから驚きです。

さらに現地に保育園を開設し、途絶えかけていた盆踊りを地元の人たちと復活させるなど、「お客さん」ではなく地域の一員として根を下ろしてきました。

そうした日々の中で突きつけられたのが、深刻な鳥獣被害です。田畑を荒らすイノシシやシカは捕獲されるものの、その多くは食肉として活かされることなく廃棄されていました。

この現実を、同グループは「命のフードロス」と呼んでいます。食べ残しや賞味期限切れだけがフードロスではない。捕獲された命そのものが、価値を見出されないまま捨てられている──そう考えた代表の高堀氏は、自ら狩猟免許を取得し、地元の猟師とともに駆除活動に加わりました。

解体の全工程をガラス張りに
「いただきます」の矛盾への回答

MUBGジビエ解体加工施設の一次加工室。搬入・除菌洗浄・トリミング・剥皮の工程説明が壁に掲示され、ステンレスの作業台と冷蔵庫が並ぶ
© 社会福祉法人どろんこ会
MUBG施設外側のガラス窓越しに見えるクラフトビール醸造用のステンレス発酵タンク群。Minami Uonuma Breweryの文字が上部に掲げられている
© 社会福祉法人どろんこ会

MUBGの最大の特徴は、ジビエの解体加工の全工程をガラス越しに見学できる設計です。

搬入から洗浄・剥皮、部位分け、ハムやミンチへの加工まで、すべてが「見える」状態で行われます。正直、最初に聞いたときは少しギョッとしました。

でも考えてみれば、スーパーのパックに並ぶ肉がどこから来たのか、私たちの多くは知らないまま「いただきます」と言っています。子どもに「命をいただいている」と教えながら、その過程を見せないのは矛盾かもしれない。ガラス張りという選択は、その矛盾への率直な回答に思えます。

加工されたジビエ肉は、2階のビアレストラン「焚火の台所」で提供されます。料理監修は、都内の人気店「秘密の台所」を手がける安藤洋平シェフ。薪窯で焼き上げる料理と、施設1階の醸造所で仕込むクラフトビールのペアリングが楽しめるそうです。

ブルワリーのホップも、耕作放棄地を活用して栽培しています。つまり、使われなくなった土地と、捨てられていた命が、ビールと料理になって食卓に届く。

棚田も、獣も、給食も
ひとつの輪でつながる保育のかたち

南魚沼の中山間地に広がる青々とした棚田。背後には杉林に覆われた山が迫る
© 社会福祉法人どろんこ会

捕獲した命を食に変え、荒れた土地をホップ畑に変え、その循環が棚田を守り、守られた田んぼに子どもたちが田植えに来る。収穫した米は給食になる──。

この施設が描くのは、「命・狩猟・農業・食育・雇用・観光」がひとつの輪でつながる地域循環のモデルです。

保育法人の仕事は「子どもを安全に預かること」だと、多くの人が思っています。でも、子どもが生きる力を育むには、その子が暮らす地域の山や田んぼや、そこに生きる動物たちの命まで含めた「生態系」が必要なのかもしれません。

23年かけて田植え体験から猟師にまでなった保育法人の軌跡は、「子どもを守る」という言葉の射程を静かに、でも大きく広げています。今度南魚沼を訪れるとき、棚田の風景がちょっと違って見えるかもしれません。

Top image: © 社会福祉法人どろんこ会
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