「なくなりそうな言葉」には、ステキな意味が込められていた。
普段、意識せずに使っている「ことば」のひとつひとつには、きちんと意味があります。たとえば<もったいない>ひとつとっても、「モノを大切にする」日本人の精神性をあらわしていたり。
ところで、世界には約7,000の言語があると言われています。これらのなかにはメディア、ネット、科学技術の発展にともない、固有の文化が薄れていくように、使われなくなり、人知れず失われていったものも。
言語学者の吉岡 乾さん著『なくなりそうな世界のことば』(創元社)は、そんな失われゆく世界の「ことば」に触れることができます。西 淑さんによるイラストが添えられたページをめくっていくうちに、「なくなるなんてもったいない」なんて気にも。どんな背景があるのか、考えてみたくなる「ことば」を集めてみました。
【ヒライス】
もう帰れない場所に
帰りたいと思う気持ち
ウェールズ語 Welsh
使用地域:ウェールズ(イギリス)
話者数:約56万2,000人
何も知らない憧れのままだったら、きっとこんなにも切なくならなかった。あたたかい記憶があるから、余計にこんなに寂しくて、どうかもう一度と願ってしまう…。
もう戻れないとわかっている、恋にも似た気持ちなのかもしれません。
【ヴェヴァラサナ】
(どこにいても)分かり合える
ヘレロ語
使用地域:ナミビア、ボツワナ
話者数:約20万人
隣にはいないけれど、これを見たらきっとあの人は声を出して笑うだろう。この景色を見たら、「キレイ…」と声を漏らすだろう。想像だけど、確信に近いこの気持ち。
離れているのに、自分の中に相手がいるような感覚。きっとどこにいても私たちは大丈夫。ヘレル語を使う人たちはそう信じているのかも。
【バサーオ】
たどり着けないほど遠い
(主に心の距離が)
ポポロカ語
使用地域:メキシコ
話者数:約2万人
物理的な距離ならば、どんなに遠くてもゴールにたどり着けます。でも、心の距離が遠いと感じたときはどうでしょう。まさにこの絵の男性のような気持ちなのでは。
いま、この言葉がなくなろうとしているのは、人々の心の距離が縮まったからではないはずです。
【ビジン】
そのままにしておけ、放っておけ
ウルチャ語
使用地域:ロシア
話者数:約100人
そのままでいい。そのままにしておこう。決して、投げやりなわけではなく。
そのまま、ありのまま、変えないことが美しいこともあります。少しずつ自然に変わっていくこともまた、美しい。そんな意味が込められた言葉なのでしょう。
【マラミク】
死後の世界、夢
大アンダマン混成語
使用地域:アンダマン諸島(インド)
話者数:0人
もうこの言葉を話す人はいなくなりました。アンダマン人にとって、死後の世界は眠っている時にみる夢の世界。夢の中では、亡くなった人にも会える。
もしかしたら、どちらが現実で夢の世界なのかなんて、誰もわからないのかもしれません。