山口・長門市の「百姓庵」へ。おむすびの向こう側には、思わず見とれる丁寧な塩づくりの世界があった
こんにちは。クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」でローカルフードを担当している菅本香菜です。副業では、旅するおむすび屋「むすんでひらいて」として活動しています。
今回は、山口県長門市でお塩づくりをされている「百姓庵」へ、おむすびツアーへ行ったお話です。
「お塩で感動する」という
初めての体験
山口県長門市にある、向津具(むかつく)半島。
ちょっと変わった名前の半島、名前とは裏腹に穏やかな時間が流れる場所で『百姓庵』を営む井上さんご夫妻はお塩づくりをされています。
一年前、百姓庵のお塩を初めていただいたとき、しょっぱいだけでない奥深い旨味を感じて、お塩で感動するという初めての体験をしました。
どうしてもそのお塩の裏側に出会いたくて百姓庵を訪れてからというもの、お塩ができるまでの風景や、そこで働くみなさんの想いに惹かれて、私は百姓庵のお塩を愛用しています。
”百姓庵の魅力をみなさんにも体感して欲しい”という想いで企画した、今回のおむすびツアー。
このツアーは、おむすびに使われている食材の裏側について生産者さんから学び、みんなで食卓を囲んでおむすびを結ぶ、というものです。
思わず見とれてしまう
塩づくり
私たち「むすんでひらいて」が実施したクラウドファンディングで『おむすびツアーに参加する権利』というリターンを選択して、支援してくださったみなさんと一緒に百姓庵に行って来ました。いつも通り、温かく迎えてくれた井上さんご家族。
百姓庵のスタッフのみなさんも総出でおもてなししてくださいました。まずは、おむすびに欠かせないお米の準備。
「生活はなるべく手づくり」というモットーをもつ百姓庵は、お米も手づくりされています。百姓庵で育てた新米を、かまどで炊飯。
いい具合に火入れをするのは、最初はとっても難しいのだとか。かまどの蓋から白い湯気が吹き出してきたときは、小さな歓声が上がりました。
お米を蒸らしている間に、塩づくりの現場を見学。お塩づくりをされている井上ご夫妻のご主人、雄然さんにその工程を教えていただきました。
向津具半島に面する油谷湾から海水をくみ、立体式塩田で海水を循環させながら、太陽と風の力を利用して海水の塩分濃度を濃くしていきます。
約2週間かけて海水を濃縮したら、釜で炊いていきます。釜で火にかけてからも、まだまだ塩になるまでには時間はかかります。
まずは、約4日間かけて予備炊き。じっくり海水を煮詰めます。
塩分濃度が20%ほどになったら、いよいよ本炊き。約10時間かけて海水をほとんど蒸発させていくと、塩の結晶が現れます。私たちが訪問したのは、ちょうど本炊きのタイミングでした。
雄然さんがゆっくりと釜の中で結晶になった塩をかき寄せると、キラキラ輝く塩の結晶が現れます。
その光景は、ずっと見ていたくなるほど綺麗でした。
海のミネラルを
凝縮させた「塩」
海水が結晶化したら、杉樽に移します。
そして、百姓庵が大切にされている「天地返し」という工程に入ります。
結晶化していく最中に、海に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの組成が違うミネラルが層になってしまうので、それらを樽の中でしっかり混ぜ合わせることで、ミネラルを均一にし、海水が本来もつミネラルバランスに近づけます。
やっと、ここから仕上げ。
完成した塩を杉樽で3日寝かせ、その後また3日ほどかけて乾燥させて、ようやく完成です。
陸上の生きものも、元はみんな海から生まれました。人間も、同じです。だから、人間の身体を占めている70%の水は、海水とほぼ同じミネラル分なのだとか。海のミネラルが凝縮された塩からは、人間に必要なミネラルを摂取できるそうです。人間にとって、質の良いお塩は欠かせない存在なんですね。
「会社や地域を育てるのにも
下ごしらえがすごく大切」
塩の奥深さを実感したところで、かまどの中でスタンバイしていた炊きたてごはんの元へ戻り、いよいよおむすびを結びます!
みんなでワイワイ結ぶおむすび、手の大きさなどに合わせてそれぞれの個性が活きたおむすびが出来上がりました。
井上ご夫妻の奥さん、かみさんが準備してくださったおかずや豚汁と一緒にお待ちかねの「いただきます!」。
新米の甘み、海水を丁寧に炊いて作られたお塩の旨味、思わず頰が緩みます。食卓を囲みながら、百姓庵がこれから目指す姿について、かみさんに伺いました。
「私は、この場所に15年前に移住してきたんだけど、ここでの暮らしが大好きだから、これからはここで、百姓庵という会社を育て、地域を育てていきたいと思っとるんよね。会社や地域を育てるって、お塩づくりや料理と一緒で、下ごしらえがすごく大切。丁寧に一つひとつ積み重ねていくことで、少しずつ思い描いているものに近づくんじゃないのかな」
丁寧に丁寧にお塩を作り、暮らしに感動を届けている百姓庵のみなさん。地道な下ごしらえの本当の意味を知っているんだろう、と感じました。毎日の暮らしや仕事から地域づくりに至るまで、何かと焦って答えや結果を出そうとしてしまうけれど、無理に形にしてしまうだけでなく、丁寧に本物を育て根付かせていくことも大切なのかもしれません。
お腹いっぱいになって、みんなで手を合わせて「ごちそうさまでした!」。
楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまいました。
帰り道、油谷湾が夕日に反射してキラキラ光る姿を見て「この海から恵みをいただいているんだなぁ」と自然に思っている自分が、そこにいました。
百姓庵を訪れてから、家でおむすびを結ぶたびに、向津具半島の美しい景色が頭に浮かびます。そして、「ちょっと丁寧に過ごしてみよう」と背筋が伸びるのです。
おむすびの向こう側にある世界が、私の中で広がりました。
おむすびツアー、次はどこへ行こう。どんな学びがあるんだろう。
まだまだ旅は続きます。