「ダメな人」にも行ってほしい。茨城・つくばで一番長居したカフェ

「なんか好き」っていう理由だけで選んでも、いいですよね。

「なんか好き」なんです。このお店。

なんか居心地がいいんです。その理由は最初はわからなかったのだけど、だんだんわかってきました。このお店は、じわじわくる系です。

遊び道具が
たくさんあります

入り口を入ってすぐ、なぜかけん玉がお出迎えしてくれるカフェ、「千年一日(せんねんいちじつ)珈琲焙煎所」は、茨城県つくば市にあります。

「前にお店でライブを依頼していたミュージシャンがけん玉やる人で、冗談半分に“とめけん”を一発でできたらギャランティーいらないよって言われたんですよね」

とめけん、ってのは、けん玉の玉をけんの先にブスッと刺すやつね。

「もちろんできなかったんですけど、次に彼が来た時にできるようになってて、今度こそタダになったらいいなと思って練習用に置きだしたのがきっかけです」

そう説明してくれた店長の大坪さんは、ちょっと困った顔でこうも付け加えました。

「でも、5年くらい前からけん玉がテレビで紹介されてたよってのを聞くようになって。なんか流行りに乗ったみたいになっちゃったけど、うち、テレビないから知らなくて……」

さらには日本けん玉協会の関係者が遊びに来て、お店で級をあげられるようにできますよと言われ、検定イベントをやることに。その後も、たまにけん玉達人みたいな人がお店に来ることもあるそうですが、大坪さんも最近はあまり練習できてなくてお相手不足だろうと思い……そっとしておくとのことです(笑)。

「きっかけはさっきの話だけど、個人的にけん玉ってかたちがよくできてるなって思ってます。いいデザインだなって。それが並んでるのは、面白いかなって思って置いてたりもして」

お店に置いてあるのは「山形工房」さんのもの。購入もできるし試しに遊ぶこともできます。

やるよね。

ドラえもんみたいな手で失礼します。何年ぶりかでけん玉やってみたんですが、全然できませんでした。おそろしいくらいに。悔しい! できるまでやるもん! ……なんて私みたいに意地になる負けず嫌いはこのパターンでお店に長居してしまうわけですな(長居しすぎました。大坪さん、すみません)。

ま、遊び道具は他にもいろいろあるわけです。CD、レコード、雑貨、古本なんかも。本のラインナップは大坪さんの趣味なのかな。

「最初は棚がもっと大きかったんですよ。本当は置く本もこだわりたかったんだけど……。面白がって、こだわって集めてたりもしたんだけど……。僕、売れないんですよ、本」

どゆこと?

古本買えます。一冊100円からいろいろ。

「好きなもの集めると、しまいこんじゃう。おんなじのが2冊あったら1冊は譲れるけど……。だから向いてないなって」

私も小物が死ぬほど好きで、将来は雑貨屋さんをやりたいって思ってたけど、同じように思ったことがあります(笑)。

他の雑貨もいろいろ面白いです。

カウンター脇の席の椅子は少し変わったデザイン。

「これはチャーチ・チェアと言って、教会にあるやつ。背もたれに聖書を置くところがついてて。下の、開いて台になる部分は、おそらく後ろの方が膝をつく場所かな?」

重たいだけで、お店で使うには何の役にも立たないんだけどね、なんて大坪さんは笑っていましたが、いやこの無駄な感じがいいんですよ。アンティークの冷蔵庫なんかも置いてあって、そっちも素敵でした。

何だ何だ
“カスカラティー”?

ハイッ! そろそろ飲み物の話をしますね。カフェなんで。焙煎所ってぐらいだからいろんな豆があって、コーヒーを選ぶべきなんだとは思いますが、今回はあえて「カスカラティー」をおすすめしてみようと思います。

写真手前が件のカスカラティー(奥はカメラマンが飲んだグァテマラだったかな?)。コーヒーと比べてちょっと赤い、 紅茶みたいな感じの色。コーヒー豆の外側(実)を乾燥させて抽出したお茶なんです。

「“カスカラ”っていうのが、スペイン語で“殻”って意味があるんですよね」

コーヒーと紅茶の真ん中、若干コーヒー寄り。少し甘酸っぱさがあって、コーヒーとはまた違った味わい。

知ってる飲み物の中で近いのは、「ローズヒップティー」。ハーブとかスパイスを入れてチャイみたいに飲んだりもする人もいるみたい。そして体にいいとか言われてるみたい。そうなってくるとですね、絶対好きだわ〜、女子。

お店、実は、
餃子屋さんだったかも

それから、気になってた人も多いと思います。お店の名前。

「マザー・アン・リーさんっていう、キリスト教の昔の宗派を始めた人の言葉で、

 

“千年の命があるかのように、かつ明日死ぬかのようにおつとめしなさい”

 

というものがあって、なんか、この言葉が好きで。まあ、今でもこの言葉の本当の意味することとか、わからないんですけどね。この言葉と、障害者の仕事というところを紐づけて、つけたというか」

「お店は、コーヒーが好きで始めたのもあるけど、もともとは障害者の就労場所になればいいなと思って始めたんですよね。ある程度まとまって単純作業ができる方がいいんだろうなと思って、候補としては餃子屋さんか珈琲屋さんだなって。ちょっと前は豆の選別を手伝ってもらってたんですが、餃子なら、具を刻んだり、皮に包んだり……あとは単純に僕が餃子が好きなんで。あ、ホワイト餃子って知ってますか?」

ここから私たちは本題を外れ、しばしホワイト餃子について語り合いました。美味しいですよ、ホワイト餃子。本題に戻ります。というか、じゃあここは、「千年一日餃子工房」だったのかもですね!

「あはは」

人も物も、いろんなタイプを
受け入れてくれる場所

初めて来た時、このお店は、雑貨、絵、器、写真、音楽、本、いろんな物が混在する空間だなぁとは思っていました。アーティストの個展や、ライブがあったり、出張パン屋さんが開かれたりもしてて、確かにエントランスも開放的なんですが、すごくいろんな方向に対して開かれた感じだなぁって。

「ちょっと前に、あるお客さんにやっぱりお店にはおしゃれな人が来るんですか? って聞かれたことがあって。だから、ダメな人もいっぱい来ますよって言ったんです。難しいんだけど、この場合の“ダメ”の意味っていうのは、“悪い”人って意味じゃなくて、今の世の中から少しだけはみだしちゃうような、逆に言えばすごい面白い人なんだけど、なんか世の中生きにくそうにしているっていうか、そういう人のことで」

そういう人も、もっとどんどん来てくれたらいいなあという思いも込めて。もちろん自分もダメな人の一人として言ってるんですけどね。そう言って大坪さんは優しく笑いました。

私も、 私もです。自分のこと、自信持ってダメな人だって言えます(笑)。

「どんな人も、お互いを認めあえるような優しい世の中になってくれればいいのにと思うんですよね」

「どの街でもなのか、つくばがそうなのかはわからないけれど、すみ分けてしまってる感じはあって。行く店も同じになってて、それが個人的には残念だから、もっと街の人が混ざりあえばいいなとも思います。お店側が、メニューとか内装とか音楽とかで選んじゃってる部分もあるから、しょうがないのかもしれないんですけどねぇ」

あまり周りに流されず、自分の好きなことを、淡々と。大坪さんのスタイルはそんな感じです。「あんまりこだわりとかなくて……」なんて言っていたけど、だからこそ、ここにはいろんな人や物が集まれるのかなぁ。だからこそ、居心地がいいのかなぁ。そんな風にも思いました。

ちなみに、同じ並びの右隣には「PEOPLE BOOK STORE」っていうイケてる古本屋さんがあってですね(もう勝手に紹介する私。店長の植田さん、もし読んでたらお許しください)。合わせておすすめです! とりゃぁッ!

Photo by Etsu Moriyama
取材協力:つくば市

千年一日珈琲焙煎所

住所:茨城県つくば市天久保3-21-3 星谷ビル1F/G

TEL:029-875-5092

営業時間:11:00-19:00(日曜日 〜18:00)

定休日:火曜日・水曜日

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。