天高く伸びる「災害シェルター」の意義

天に向かってまっすぐ伸びたその塔は、まるで巨大なランプ。これは、ポーランド人デザイナー3人組(Damian Granosik、Jakub Kulisa、Piotr Pańczyk)が考案した災害シェルター「Skyshelter.zip」だ。

風船の如く膨らむ高層ビル

© Damian Granosik

折り紙のようにコンパクトに畳んで、ヘリコプターなどで簡単に運搬可能。外壁部分にはヘリウム風船のような部品が仕組まれている。土台を建て、膨らませば高層シェルターの完成だ。

わざわざ高層であるメリットは3つ。

建物が災害時のランドマークになること、高さを活かして雨水を浄化できること、そして土地の使用面積が従来の仮設住宅やシェルターの30分の1になることだ。建物内で植物の栽培をしたり、外壁で太陽発電もできるという。

世界中で増える災害に焦点を当てたこのコンセプトは、建築メディア『eVolo』の「Skyscraper Competition 2018」というコンペで、500以上ある応募作品の頂点に立った。

実現を疑った人は、正解だ

© Damian Granosik

さて、「こんなの本当に建つのか?」と思った人は正しい。これはあくまでコンセプトであり、アイデアであり、完全なフィクションだ。

そもそもコンペ自体が高層建築のアイデア、コンセプトを募るものであり、『eVolo』の編集長いわく13年の歴史をもつこのコンペで実現した受賞作品はひとつもないという。

そんなコンペに対しては厳しい意見も出ている。イギリスの建築デザインメディア『Dezeen』のコメント欄では、好意的な意見と並んで「現実世界の要素を完全に無視したコンペになんの意味があるんだ」「こういう類の提案は、建築界のフェイクニュースに”近い”」といった批判も見受けられた。

コンペの是非を問う以前の問題として、こうした提案をあくまで「アイデア」だときちんと書かないメディアや、そうと気づかずに情報を拡散してしまう人が多いのも事実だ(ちなみに前述の『Dezeen』は、これがコンセプトであることをちゃんと書いている)。

そうなってしまえば確かに「嘘」である。でも大体は誤解を生む書き方で報じる側、そうでない場合はきちんと読まない読者側の問題だ。

実現しないアイデアだって無駄じゃない

© Damian Granosik

では、なぜ実現可能性の著しく低いアイデアが取り沙汰されたり、コンペになったりするのだろう?

「建設の際に考えるべき要素にとらわれず、コンセプトの実用性や有用性だけをみることによって、人は夢をみたりインスピレーションをもらったりできる」

「Anne Quito /『“ARCHITECTURE FICTION” IS THE DESIGN WORLD’S CLICKBAIT』/ Quartzy より引用」

『eVolo』のコンペで審査員を務めたJames Ramseyは、ビジネスメディア『Quartzy』でそう話している。その考え方は、SFの必要性に通じるものがある。

この記事を書いたライターのAnne Quitoは、ほかにもこうした挑発的なアイデアが若い建築家のキャリア開始に役立つこと、そしてこうしたコンセプトが本当に実現してしまうこともあるといった意義も挙げている。

コンセプトだけの建築コンペを開くことに是非はあるものの、アイデアはそれ自体が尊い。実現の可能性が低くとも、それが次につながったり、誰かのインスピレーションになったり、ひょっとしたら本当に実現してしまうかもしれないのだから。

それをはじめから無駄と決めつけてしまうのは、野暮ってものではないだろうか。

Top photo: © Damian Granosik
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。