最後のチャンスか!?中銀カプセルタワービルに住む

故・黒川紀章によるモダニズム建築の傑作、中銀カプセルタワービル。1972年にカプセル型集合住宅としてデビューしたこのビルは、40年以上経った今も住まいとして機能しています。

2019年現在、マンスリーで借りることのできるカプセル(部屋)は3種類。老朽化などの理由により取り壊される可能性があり、これが最後のチャンスになるかもしれません。

1972年当時の面影を残した
「オリジナルカプセル」

©小川真吾

「オリジナルカプセル」の広さはおよそ10平米ほど。高度経済成長期、24時間働く東京のライフスタイルを想定して設計された住居です。

キッチンも洗濯機置場もなし。あるのは、ベッドと着替えができる程度の足場、そしてバスルームのみ。デスクが必要なら壁から机を引き出せばOK。ビジネスパーソンに向けて徹底的に合理性を追求した、ひとつの答えです。

ウォールに埋め込まれているオープンリールのテープデッキや、オーディオ、デジタル時計、照明などから歴史を感じられるのも魅力。

当時は各地に同じタワーをつくり、カプセルをクレーンで取り外して運ぶモバイルハウスとして使うことも視野に入れられていました。実現しなかったとはいえ、タイニーハウスをはじめとするファンクショナルな極小住宅が注目されている今の感覚には、とてもフィットしています。

ウィークデーにデスクワークと睡眠時間を確保するための空間と考えれば、立地も含めて食指が動く人は、70年代よりも今のほうが多いのではないでしょうか。

カスタマイズで広くなった
「丸窓ソファカプセル」

©小川真吾

中銀カプセルタワービルでは、カプセルの持ち主がリノベーションを行うことも珍しくありません。「丸窓ソファカプセル」と名付けられたこのカプセルもそう。

デスクやエアコンが壁の内側に収納されており、ベッドを置かずに布団をしまえる収納スペースをレイアウト。ミニオフィス向きで、SOHO的な使いかたに合いそうです。

備え付けの照明やスピーカーは、Bluetooth®に対応していて、照明の色をスマホで変えることもできます。

そして、なによりこのカプセルのアイコンである丸窓ソファ。腰掛けて浜離宮を眺められるので、物理的なスペースが広くなったことに加えて、感覚的にも広々しています。

やわらかい雰囲気のコラボカプセル
「無印カプセル」

©小川真吾

中銀カプセルタワービルの住人の間で、無印良品のインテリアが「カプセルにマッチする」と人気が高かったことから実現したコラボレーションカプセル。無機質さが魅力とも言えるオリジナルカプセルとは対極的ですが、シンプルで機能的なブランドイメージは、両者に共通しています。

頑丈な収納用のボックスは、そのままチェアーとして使用可能。スツールもテーブル代わりにできるものが選ばれています。

とくに女性人気の高いカプセルだそうです。

余談ですが、かつては場所柄もあり、夕方になると日本髪を結った銀座のママさんたちがエントランスから出勤する姿も見られたとか。近未来的な建物と古風な和装の女性のコントラストは、思い浮かべるだけでも東京的ですよね。

キッチンや洗濯機を使わない
レトロフューチャーな銀座生活を

©小川真吾

1972年に考えられていたのは、会社からカプセルに戻って仕事をし、シャワーを浴びて睡眠を取ったらまた会社に移動、週末だけ郊外の自宅に帰る、そんなライフスタイルでした。

カプセルごとに、ブラウン管テレビや回転ダイヤル式の電話が埋め込まれていたほか、建物にはカプセルレディと呼ばれるコンシェルジュも常駐していました。タイプライターの打ち込み作業や、コピーを取ったり、翻訳をしたり、様々なビジネスサポートを依頼できたそうです。

元々あった設備のほとんどが使えないのは残念ですが、1Fにあるコンビニは大きな冷蔵庫代わりだし、洗濯は宅配の洗濯代行サービスを使うのも手。バスルームのシャワーさえ使えないけれど、共用部のシャワーブースも利用可能。

実生活に必要な機能や当時あったオプションは、他のサービスで代用できるところも多くあります。居心地もいいからか、見学ツアーで訪れた人もなかなか帰りたがらないのだとか。そのまま住人になっちゃうってパターンも、多いみたいです。

保存するか取り壊すか結論まで数ヵ月?
見学ツアーだけでも行く価値アリ

このマンスリーレンタルは「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」が保存活動の一環としてスタートした経緯があります。

見学ツアーも、クラウドファンディングで本を出版する際に、リワードとして設定されていたもの。評判がよく継続することになり、今では土日の日本語ツアーのほか、平日の英語ツアーにも沢山の人が集まるようになりました。

参加者には高層ビルが立ち並んでいない時代から建物を知っていた人も多く、子どもと孫を連れて三世代で見学しにくる人もいます。カプセルを見学しながら、過去の未来像や、当時の雰囲気を見聞きするだけでも刺激的だからでしょう。

プロジェクトの代表である前田達之さんによると、じつはこの建物、11年前に取り壊しが決定していました。しかし、リーマン・ショックでゼネコンが倒産して計画は頓挫。不況や保存活動の影響もあり、なんとか生き延びている、運のいい建物なのだそうです。

民泊が可能だった3年前は、1泊1万5000円で1ヵ月を通してほぼ満室という盛況ぶり。毎日頻繁に人の出入りが発生したため禁止になりましたが、それだけ人を魅了する建物であることは事実でした。

保存プロジェクトについては、今も黒川紀章建築都市設計事務所や東京都中央区と話し合いをしている真っ最中ですが、建物を保存するか、取り壊すのか、あと数ヵ月で結論が出るとも。つまり、中銀カプセルタワーに住めるチャンスは、これが最後になるかもしれません。

もちろん、プロジェクトがうまく運べば、2022年の竣工50年にはカプセルを全交換する可能性もなきにしもあらず。本来、25年に一度カプセルを取り替えて半永久的に使用するというのが、黒川紀章氏が考えたメタボリズムの思想です。それが50年の節目に実現したらと考えるとワクワクする話。

そうなれば、新しいカプセルの姿だけでなく、交換する瞬間を見るために国内外から多くの見物客が訪れるはずです。が、取り壊しが決まれば時間はそうかからない、とも。

マンスリーカプセルの賃料は月12万円。管理人さんにちゃんと挨拶をしてマナーよく利用すれば、複数人で出入りすることも可能だそうです。多様な住人が集まっており、これをきっかけにご近所さんとお近づきになれば、和室に改装したカスタムカプセルなどを見る機会にも恵まれるかもしれません。

申込みの詳細は「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」に問い合わせを!

Top image: © 小川真吾
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。