辻堂のコーヒーショップで「受け継がれたエプロン」

味、サービス、雰囲気、客層……お店の価値をそれだけで決めてもらっちゃ困る。街は百花繚乱、目を奪われるエプロンだらけ。わざわざ店まで足を運ぶ価値はここにだってある。

というわけで、働く人たちのアガるエプロンをじっくり拝見。ついでに教えて!そのエプロンどこのですか?

©YUJI IMAI

THE GREEN STAMPS CAFE
“年季”と“汚れ”の境界線

胸元に大きく付着したシミ、腰ポケットは生地がかすれて変色している。“いい味”と形容するには、くたびれ具合が度を超えて映るこのエプロンだが、新人バリスタ高下将之介さんには輝いて見えた。

「これを着てドリップしているバリスタの姿がめちゃくちゃかっこよく見えたんです。憧れたっていうか」。

THE GREEN STAMPS CAFEの常連客だった高下さんはそれから半年後、カウンターの“中の人”になり、オーナーの私物だったエプロンの所有権が彼に移った。

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「どこで買ったものかも、ブランド名も、正直全然わかりません(笑)」。

エプロンの裾、かろうじて読み取れたのはSTANLEY & SONSのロゴ。ブルックリンの工房でレザー染め、なめし、裁断、染色、縫製までオールハンドメイドでつくるバッグとエプロンが人気のブランドだ。

譲り受けた時点でカーキ色のエプロンはすでに、十分エイジングがかかっていたようだが、キャンバス地の胴体部は触ると今もそれなりに硬さを保っていた。紐はすべてレザーで仕上げ、耐久性を高めるためにリベットで留められている。特筆すべきは腰紐。エプロンには珍しい、片側からループにかけるシングルベルト。かっこいい。

たしかにボディもパーツも、どれもくたびれきってはいる。でも、ほつれや破れは見当たらない。丁寧に手入れされてきた現役選手だ。

「年季の入ったものって、単に汚いだけのものもありますが、かっこよく見えますよね。ほんと紙一重。僕にはこのくすんだ色やヨレた感じが、かっこいいんです。使い込まれたグローブみたいで」。

カウンター越しの
エプロン姿に見た夢

サーフィンが趣味の高下さん。休日波乗りのあとに立ち寄るお客だった彼を淹れたてのコーヒーで迎えたのが、くだんのTHE GREEN STAMPS CAFEオーナー山田一歩さんだ。

何度か通ううちに冗談半分で、店に立つオーナーにこう切り出した。「やらせてください!」。そこから半年、休日を利用して無給で働き、バリスタとしての一歩を踏み出した。

「お金をもらえなくてもよかった。店に立ってみたかったんです。軽快にお客さんと話し、人と人とがつながっていく。そういうコーヒーカルチャーが好きだったから」。

飲食店の経験はゼロ。もちろんバリスタも未経験。それでも、熱意と人懐っこい高下さんの笑顔にオーナーは首を縦に振った。弟子と師匠、のような師弟関係ではないらしいが、エプロンが高下さんの元へと渡ったのは事実。

「今は、毎日でいっぱいいっぱいですが、いずれは地元広島でお店を出せたらいいなとは思ってます」。

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後日、オーナー山田さんにエプロンの出自を尋ねてみた。

「人生で初めて買ったエプロンなんです。自分で店を持って、それを初めてのスタッフである高下に引き継いでもらいました」。

そのエプロンは山田さんがまだバリスタになる前、かっこいい飲食店を展開する知人オーナーに憧れ、見切り発車で買ったもの。修行時代を経てやがてその夢は現実となり、同じ希望を抱いた高下さんと出会ったわけだ。

いつか、高下さんが開店するコーヒーショップに憧れてやってくるスタッフに、このエプロンが継がれていったとしたら……なんだか夢のある話じゃないか。

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Stanley & Sons
2008年にブルックリンでスタートしたブランド。厳選されたキャンバス地や、自分たちで手染めしたベジタブル・タンレザーを使用しデザイン、裁断、染色、縫製、プリント、ハンマーリングなどすべての作業をブルックリンの工房で手作業で行っている。

取材協力:THE GREEN STAMPS CAFE

Top image: © YUJI IMAI
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。