このエプロンは「誰かが捨てた衣類」からできている

味、サービス、雰囲気、客層……お店の価値をそれだけで決めてもらっちゃ困る。街は百花繚乱、目を奪われるエプロンだらけ。わざわざ店まで足を運ぶ価値はここにだってある。

というわけで、働く人たちのアガるエプロンをじっくり拝見。ついでに教えて!そのエプロンどこのですか?

©YUJI IMAI

KAMIKATZ TAPROOM
不揃いのリメイクエプロン

全国の自治体で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、今では80%以上の再資源化に成功している徳島県上勝町。この小さな町のブルワリーが東京タワーのふもとに進出。RISE & WIN Brewing Co.KAMIKATZ TAPROOMだ。

上勝産の丸太を用いたカウンターや空きビンを再利用したシャンデリア、町のコンセプトそのままに廃材を利用した内装ばかりに目が行くが、エプロンだって見逃せない。じつはここのエプロン、誰かが着なくなった衣類を集めてリメイクしたもの。よって、素材も生地の色もバラバラ。

「家庭で不要になったものが集まるリユースの拠点が上勝町にあるんですが、そこで古着や端切れを集めてエプロンに仕立ててもらっています。ひとつひとつ色も柄も違うので、着る側としても毎回楽しみがあります」。

新しいエプロンが届く日は早い者勝ちで選べるそうで、シフトの心理戦が行われている。スタッフの谷口貴将さんが、最近新調したばかりのエプロンを見せてくれた。

ニット地を胸元で切り返した胸当てタイプ。手に入った生地をパッチワーク調につなぎ合わせたもので、無地、迷彩、ストライプ……なるほど、たしかに柄も素材もバラバラ。ふたつとして同じものがないわけだ。

©YUJI IMAI

古布を集めてつくるエプロンが
ゼロ・ウェイストの精神を届ける

町の廃材を利用したインテリアの中でクラフトビールを楽しむ店らしく、スタッフエプロンも古布から。さもありなんと頷けても、人口1600人にも満たない上勝町の、それも廃品回収所に集められた古着だけを使うとなると、素材選びだけでも手間ははかり知れない。

けれど、そこを譲るわけにはいかなかった。上勝町の“ゼロ・ウェイスト”精神をクラフトビールで体現するRISE & WIN Brewing Co.。いくら時間がかかっても、廃品を活かしたエプロンをつくりたいという代表田中達也さんの熱意が、同じ徳島県内(藍住町)で「しごと着」をコンセプトにしたブランドjockricを動かした。

「家族経営の小さな縫製工場なんですが、ひとつひとつの仕事がとても丁寧。廃材を使うことの意味や醍醐味に共感してくれて、一緒にやることになりました」。

©YUJI IMAI

RISE & WIN BREWING Co,代表の田中達也さん。

©YUJI IMAI

切り返しから下のパッチワークだけ見ても、素材の違いがわかる。左は初代のエプロン。

不要となった古着を継いで接いで。古布を使ってはいても、使いづらさや着心地の悪さを理由にはできない。フィロソフィも大事だが、用途として成立することが大前提。そこを大切にしてくれる、と田中さんはJockricを評する。

機能性が高く、なおかつデザインのいいエプロン。インパクトの大きさでは店内装飾に軍配があがる。けれど、エプロンをフックに上勝町やゼロ・ウェイストがお客とのコミュニケーションに登場することがある。

「インテリアでも、エプロンでも、ビールの味でもいい。ちょっとずつ裏側にあるストーリーに触れていってくれると嬉しいですね」。

上勝町の取り組みをそのまま東京に持ってきた意図、古着のリメイクにこだわる理由がそこにある。

©YUJI IMAI
©YUJI IMAI

jockric
家業を引き継いで2013年より、「しごと着」をコンセプトに新たなワークウェアを提案するブランド。2017年より上勝町に工房を構え「jockric REBUILD」を立ち上げ、ゼロ・ウェイストを表現したプロダクトをスタート。

取材協力:RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM

Top image: © YUJI IMAI
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。