抗う術は、もうない?「価格そのまま、サイズダウン」は今後も続いていくらしい……

「シュリンクフレーション」という現象をご存知だろうか。

これはshrink(収縮)とinflation(インフレ)を掛け合わせた造語で、企業が商品の価格を据え置いたまま内容量を減らすという経済問題のこと。

実質的には値上げされているのだが、価格は変わっていないために消費者が気づきにくい……そんなやり口がレーダーを回避する戦闘機に例えられ、日本では「ステルス値上げ」とも呼ばれている。

物価高騰に悩まされる私たちならば、思い当たる節があるはずだ。日本人に馴染み深い例では、22年1月のカルビー「ポテトチップス」及び「じゃがりこ」、湖池屋の「カラムーチョ」の内容量減少などがある。

これらは企業側からしっかりと発表されているため“ステルス”ではないが、世界では必ずしも良心的な警告が出されるとは限らないという。

パンデミックや製造コストの上昇が続いた少し前まで、こうした手法は一時的なトレンドのようなものだと思われていた。ところが、昨年後半に『BBC』が報じたところによれば、これは“永久的に”続くことが懸念されているらしい。

目を背けたくなるような話だが、もし真実ならば、あらゆる消費者にとって無視できないと言えるだろう。秘密の値上げに踊らされぬよう、ここで世界のシュリンクフレーション事情を押さえておこう。

企業は、いかにして値上げを「隠蔽する」のか

スナック菓子であれ日用品であれ、シュリンクフレーションの要因の多くは、製造コスト上昇や税改定、為替変動などが元となるインフレ。原材料費の高騰、流通網の停滞、国際貿易の緊縮化……紛れもなく経済が不安定な今、これは日本にとどまらず、世界中で多発している問題だ。

消費者に勘付かれることなく、密かに、少しずつ内容量が減っていく。酷いケースでは、量が減った上に価格が上昇することすらあるらしい。おまけに、海外の大企業の多くは、完全なステルスを演じようとする傾向にある。

経済状況の厳しさを露骨に示すシュリンクインフレーションだが、企業はいかにして我々の意識を潜り抜けているのか?

答えはシンプル。私たちは、金額自体が上昇(値上げ)する場合と比べ、内容量が減ったことには気が付きにくいのだ。

ある企業教育団体の主任であるMark Stiving氏は、「消費者はサイズの縮小に気づくよりも、価格の上昇に気づくことのほうが多い」と語る。

シュリンクフレーションは、内容量こそ減るが金額は据え置かれるため、企業は消費者に気づかれにくい“実質的な価格上昇”を行うことができるというわけだ。先述した国内の例にしても、「発表を知らずとも勘づいていた」という人は少ないのではないだろうか。

消費者はもう気づいている

さて、知らぬ間に無限の搾取に陥りそうに思えるが、これだけ情報が流通している時代だ。実際には、こうした動向を察知している消費者は少なくないようだ。

イプソス・グローバルモニターが33カ国を対象に行った調査によれば、ほぼ半数 (46%) の消費者が「シュリンクフレーションに気づいていた」と回答。特に、値上げが頻発する欧米では顕著で、イギリスにおいては64%もの人々が認識していたとのこと。

意外なのは、全体の約4分の1(22%)を占める人々が、コスト上昇の対応策としてシュリンクフレーションを「容認できる」と回答していること。原材料費の高騰やサプライチェーンの停滞は世界中各地で起きてしまっているため、やむを得ない対策として納得し始める人が増えてきたことが考えられる。

しかし、「容認できない」と回答したのは、それをはるかに上回る48%。企業の苦労に同情する人は少なく、実質的な値上げに憤慨し不信感が募っているのが現状だ。

こうした状況を踏まえ、ヨーロッパでは商品の「値段設定における透明性」を重視し始める動きが始まっている。

フランスのスーパーマーケットチェーン「カルフール」は、シュリンクフレーションが行われた商品にその旨を伝える警告ステッカーを貼付する施策を開始。

ラベルには「この製品は体積や質量が以前よりも減少しており、実質的に値上げされています」と、清々しいほどに直球の警告が記されている。

警告対象となったメーカーの中には、ネスレやリプトン、リンツなど、日本でも親しまれているような世界的ブランドも。

カルフールによると、ラベルを貼付する目的は「食品メーカー業者に価格設定に関するポリシーを考え直すように伝えるため」。利益目的ではなく、業界全体の今後を見据えた策であることが伺える。

また、フランス政府は「サイズが縮小された際は消費者に通知することを義務付ける」法律を発表し、この問題に関して積極的に関与する意向を見せている。

もう、後には戻れない?

こうした取り組みとは裏腹に、専門家の多くは「小さくなったサイズが元に戻る可能性は低い」と考えているようだ。

その原因の一つとして、食品アナリストであるPhil Lempert氏は「消費者に選択肢がないケースも存在する」と指摘する。

代替の選択肢が豊富なアイテムにおいては、消費者は購入するブランドを切り替え、企業に価格設定の見直しを検討させられるかもしれない。

しかし、商品のブランド力が強かったり、店舗に一種類しか置いていなかったり等、消費者の選択肢が少ない状況もある。このような場合(特に必需品において)は、明らかに割高になっていたとしても購入せざるを得ない。

企業としては利益率が高いに越したことはないので、経済状況が安定しようとも、減少させた内容量を元に戻すことは考えにくいというわけだ。

また、アメリカの元消費者権利弁護士Edgar Dworsky氏は「サイズダウンが繰り替えされた後、メーカーは新たに、高価な大型版を発表する場合もある」と語っている。

顕著な例はポテトチップスで、ペプシコ傘下のスナック菓子会社「レイズ」が、シュリンクフレーションを重ねた末に、大幅に減った内容量を補うべく「パーティーサイズ」なる商品を高額で販売した例があるそうだ。

こう聞くと、大型スーパーなどで見かけるバリューパック的な商品にも気を配っておく必要があるかもしれない。

上がり続ける物価、縮小し続ける製品、そして変わらない賃金。こうした現実は相変わらずで、近いうちに大改変を迎えるという期待は持たないほうが健全かもしれない。

そんな中で、私たち消費者にできること。

それは、買い物をする際には常に予算を立て、企業が仕掛ける罠に陥らぬよう、そして監視の成果が価格改正に繋がるよう、常にめくじらを立てておくことだろう。

Top image: © iStock.com/lechatnoir
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