歴史をサンプリングし、コーヒー業界をリミックスする。黒人ラッパーが仕掛ける、“全米で最も黒い”コーヒー
コーヒーは世界で年間5,000億ドル規模の産業であり、そのルーツはエチオピアをはじめとするアフリカ大陸にある。
しかし、歴史的に見ても、コーヒー市場を支配してきたのは主に欧米諸国であり、アフリカやアフリカ系の生産者がこの市場から得られる利益は極めて限定的だった。
この状況を変えるために立ち上がったのが、メンフィス出身のラッパーであり教育者でもあるBartholomew Jones氏だ。
彼が妻と共に2019年に創設した「Cxffeeblack」は、コーヒー産業の「脱植民地化(decolonization)」を目指す新ブランド。
この「脱植民地化」とは、単に黒人がコーヒー業界に参加することを意味するのではない。歴史的に白人資本が支配してきた供給チェーンを黒人主体に再構築し、公正な取引を通じて、アフリカ系の人々に経済的利益をもたらすことだという。
ヒップホップの「サンプリング」から生まれたビジネスモデル
Cxffeeblackのビジネスモデルは、ヒップホップの「サンプリング」にインスパイアされたものだという。
サンプリングとは、既存の音楽の一部を切り取り、新しい楽曲へと再構築する技術のこと。
これをコーヒー産業に応用し、Cxffeeblackはアフリカのコーヒーの伝統をサンプリングし、サプライチェーンを“リミックス”することで、業界を黒人の手に取り戻そうとしているのだ。
アフリカのコーヒー生産者と直接取引を行い、サプライチェーンの再編を試みている。

このビジョンを実現するために、Cxffeeblackは全ての供給段階を黒人が所有・運営する「オールブラック・サプライチェーン」の構築に取り組んでいる。
この取り組みは、エチオピアの黒人農家からメンフィスの黒人ロースターやバリスタまで全てのプロセスを黒人主体で行い、経済的利益を黒人コミュニティに還元することを目指したもの。
また、2023年には「Barista Exchange Program」を開始し、アフリカ系アメリカ人のバリスタをエチオピアやルワンダに派遣して現地のコーヒー文化を学ぶ機会を提供。さらに2024年には、アフリカのバリスタをメンフィスに招待し、相互の文化理解と技術交流を促進するなど、産業のブラックコミュニティを結束させる斬新な取り組みを展開している。
また、Cxffee Blackは教育方面の取り組みも展開。
公式サイトやApple Podcastで配信されている「The Cxffeeblack Podcast」では、コーヒー産業における黒人の歴史、ヒップホップ文化との関連性、さらにはパン・アフリカ主義といったテーマを深掘りし、リスナーに白人主義的でない視点をもたらすよう働きかけている。
このように、Cxffeeblackはコーヒーを単なる商品ではなく、文化やアイデンティティの象徴として再定義しているのだ。

投資とフランチャイズの可能性
Cxffeeblackは、投資家に対してもユニークな特典を提供している。
1万ドル以上の投資を行うと、生涯にわたる無料の「Gold Brew」が提供されるほか、2026年にはフランチャイズおよび卸売の独占的な権利を得られるように計らうという。
このビジネスモデルは、単に利益を追求するのではなく、ブラックコミュニティ全体の経済的エンパワーメントを目指したものだ。
Cxffeeblackの取り組みは、単なるビジネスの枠を超え、歴史の再解釈と文化的回復運動の一環でもある。
彼らの試みが、ブラックコミュニティの経済的自立と持続可能な未来の実現へとつながるのか、今後の展開に注目が集まる。