「愛情」こそ最強の知育。脳科学が示す、子どもの未来を拓く親子の絆

子育て」という壮大で、時に途方もないプロジェクト。情報が溢れかえる現代において、私たちは何を信じ、何を手がかりに進めばよいのだろう。

そんな根源的な問いに対し、驚くほどシンプルで、かつ力強い答えを示唆する海外の研究がある。それは、親から注がれる「愛情」という、目には見えないエネルギーが持つ、計り知れない可能性だ。

単なる精神論ではなく、子どもの脳の発達にまで影響を与えるというのだから、注目せずにはいられない。

脳の「記憶と学習の司令塔」が10%成長
母親の愛情が海馬に与える科学的根拠

「Newsweek」によると、母親から注がれる愛情は、子どもの脳の発達、とくに学習や記憶、そしてストレス反応を司る「海馬」と呼ばれる部位の成長と深く関わっているという。同誌が紹介するある研究では、愛情深い母親に育てられた子どもは、そうでない子どもと比較して、この海馬が平均して10%大きい傾向にあったそうだ。これは、子ども時代のポジティブな体験が、脳の物理的な構造にまで影響を及ぼす可能性を示す、衝撃的なデータと言えよう。

この海馬の健全な発達は、単に記憶力がよくなるという話にとどまらない。ストレスへの対処能力、つまり精神的なタフさにも関係してくる。

幼少期に養育者との間に安定したアタッチメント(愛着)を形成できた子どもは、精神的な安定を得やすく、その後の対人関係を築く力も高まる傾向にあることが、数多くの研究で示されている。

たとえば、安定した愛着を形成した子どもは、そうでない子どもに比べて精神病理学的症状が少ないという報告もある。幼い頃にたっぷりと受ける愛情は、いわば「心の安全基地」となり、人生という長い旅路を歩むための強固な基盤を築き上げるというわけだ。

ストレス社会を生き抜く「心の盾」
愛情が育むレジリエンスという名の強さ

同誌はさらに、母親の愛情が子どものストレス対処能力を高め、精神的な安定に繋がる可能性を指摘している。

愛情という名の「心の安全基地」を持つ子どもは、困難な状況や逆境に直面した際に、そこへ立ち戻って安心感を取り戻し、再び前へ進むエネルギーを得やすい。これこそが、予測不可能な現代社会でますます重要視される「レジリエンス(精神的回復力)」——困難な状況から立ち直り、適応していく力——の源泉と言えるだろう。

いっぽうで、愛情とは真逆の体験、たとえばマルトリートメント(不適切な養育)が子どもに与える影響は深刻だ。

福井大学の友田明美教授らの研究によれば、暴言を中心とした虐待は聴覚野の容積変化に、性的虐待や両親のDV目撃は視覚野の萎縮に、そして厳格すぎる体罰は前頭前野の萎縮に、というように虐待のタイプによって脳の特定部位にダメージを与えることが明らかになっている。

このような脳への物理的な傷は、感情のコントロールや学習能力の低下だけでなく、将来的な精神疾患のリスクを高めることにも繋がる。愛情ある関わりがいかに子どもの心身の健やかな発達に不可欠であるか、これらの事実は痛切に物語っている。

チームで育む愛情の輪
父親、そして社会全体で築く子どもの未来図

Newsweekの記事は主に「母親の愛情」に焦点を当てているが、現代の子育て環境はもっと多様性に富んでいる。父親の積極的な育児参加はもちろんのこと、祖父母や保育者、地域社会といった、さまざまな他者との温かい関わりの中で子どもは育っていく。愛情を注ぐ主体は、決して母親一人に限られるわけではない。

しかし、OECD(経済協力開発機構)の2021年の調査によると、日本の男性が家事・育児に費やす時間は1日あたり平均41分と、調査対象国の中で依然として低い水準にある。たとえば、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間において、夫の分担割合が低いというデータも過去には示されている。

この背景には、長時間労働といった社会構造的な課題も横たわっているが、子どもにとってはどちらの親からの愛情も、そして周囲の大人たちからの温かい眼差しも、等しく重要であることはいうまでもない。

母親、父親、そして地域社会が一体となって「愛情の輪」を広げ、チームで子どもたちの成長を支えていく。それこそが、これからの時代の理想的な子育ての姿なのかもしれない。

共働き時代の愛情方程式
カギは「時間」より「密度」

共働き世帯が増加し、内閣府の「男女共同参画白書 令和5年版」によると、2022年には共働き世帯が1262万世帯にのぼり、専業主婦世帯の倍以上となっている。多くの親たちが仕事と育児の両立に奮闘し、時間に追われるなかで「子どもに十分な愛情を注げているだろうか」という、一抹の不安を感じることも少なくないのではないだろうか。

「Newsweek」では、具体的な愛情表現としてハグや言葉かけの重要性が示唆されている。毎日、長時間べったりと子どもと過ごすことだけが愛情の証ではない。むしろ、限られた時間であっても、子どもと真剣に向き合い、目を見て話を聞き、温かい言葉をかけ、肌と肌で触れ合う。そうした「質の高い」コミュニケーション、いわば“愛情の密度”こそが、子どもの心に深く響き、安心感と自己肯定感を育む鍵となる。

どんなに忙しくても、寝る前のほんの短い時間だけは子どもと向き合い、その日あった出来事をじっくり聞いて共感する。そんな小さな約束の積み重ねが、大きな愛情となって伝わるはずだ。

愛情という究極の「ギフト」

愛情が子どもの脳機能や精神的安定によい影響を与えることは、科学的なデータも示し始めている。これは、子どもの輝かしい未来に対する、もっとも効果的で、かつ普遍的な「投資」であり「ギフト」といえるのかもしれない。

もちろん、子育てに完璧な正解などない。親自身が過度なプレッシャーを感じすぎることなく、まずは自分自身の心の安定を保つこともまた、非常に大切だ。厚生労働省の調査によると、たとえば産後うつは母親の約1割が経験するとされており、これは決して他人事ではない問題。親が心身ともに健康であってこそ、子どもに穏やかな眼差しを向け、温かい愛情を自然に注ぐことができる。

情報が洪水のように押し寄せ、子育てのノウハウが次から次へと現れる現代。しかし、そのすべての根底に流れるべきは、やはり「愛情」という普遍的で揺るぎないテーマなのではないだろうか。

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