「退屈を受け入れろ」ジョブズの進言の裏にあった、ヒラメキの方程式
キャリアウーマンだった女性が、出産を機に「退屈」の中に溺れてしまう……。よくある話です。BBCニュース記者であったアメリカ人のマヌーシュ・ゾモロディさんもその一人。しかし、彼女はアンニュイの中にとんでもない光があることを見つけます。
近著『退屈すれば脳はひらめく 7つのステップでスマホを手放す』(須川 綾子さん翻訳・NHK出版)では、「退屈」をすることのメリットが書かれています。
仕事のアイディア出しに詰まっている人は、あえて「何もしない時間を作る」のも良いかもしれませんよ?
退屈とひらめきには、
密接な関係がある
一見すると、「退屈」と「ひらめき」はまるで違うもののように思えます。「関心を失い、うんざりして落ち着かない状態」を退屈とするならば、なんとも後ろ向きです。これに対してひらめきは、誰もがほしがるもので前向き……。まったく対照的に見える「退屈」と「ひらめき」ですが、これらふたつはじつは密接な関係にあります。
ルイヴィル大学哲学科の研究者で、退屈の擁護者を自任するアンドレアス・エルピドローは「退屈は、これまで行ってきた仕事に魅力・意義を見いだせなくなったときに、次の目標を見つける原動力になる」と説明しています。
また、スティーブ・ジョブズは「私は退屈を大いに信じている。テクノロジーはどれも素晴らしいが、することがないのもまた素晴らしい」という名言を残しています。
「すべては好奇心から生まれる」という信念を抱き、若い頃に好奇心を掻き立ててくれた、長く退屈な時間を懐かしんでいたジョブズは、自分が作ったデバイスが国民の退屈をむしばむことを心配していたのです。数々の功績を残した彼の言葉だからこそ、「退屈を受け入れろ」という助言が胸にしみます。
たとえるなら、退屈はひらめきを孵化させる実験室。科学者(あなた)が、方程式や化学式(結果)を生み出すには、ごちゃごちゃして居心地が悪く、ストレスがたまる場所へしばらくいるしかないのです。
人生に「退屈」を取り戻してみませんか? はじめは居心地の悪さや苛立ち、さらには怒りさえ感じるかもしれません。しかし、それを乗り越えて「退屈」の効果を手にしたとき、驚くような成功が待っているかもしれません。
「退屈」は発見。
「ひらめき」はのんびり。
ここからは、「退屈は◯◯」、「ひらめきは◯◯」と分けてそれぞれのショートコラムを紹介していきます。
《退屈は必要なもの》
私たちは「退屈」の存在を見直さないといけません。「退屈」はあまりに軽んじられ、「つまらないこと」のように扱われている。小さい頃に親から「退屈をするのは退屈な人間だけ」と言われましたが、これは間違いだと思います。人間は、退屈しているときに思考を養い、育て、磨いています。大切な作業を行う際、心は「退屈」を常に必要としているのです。
《退屈は生産的》
「退屈」している時間をムダに感じるかもしれませんが、目標を定めたり、戦略を立てたり、さらには人生のプランを練るのに絶好の機会となることを覚えておいてください。「退屈」をすることで、人生のあらゆるレベルで大切な発見をすることができるのです。
《ひらめきは身近なもの》
ひらめきといっても、ノーベル賞を受賞した研究やルネサンス絵画のレベルじゃなくてかまいません。子どもが学校で友だちをつくるコツを考えたり、仕事のどんなところに喜びを感じるのか考えてみても良いでしょう。ひらめきが素朴でささやかなものでも、素晴らしいことには変わりありません。
《ひらめきは、のんびりと相性が良い》
いくつものアイディアをかけ合わせて新しい価値をつくるには、退屈さに耐える時間、孤独、我慢は避けて通れません。しかし、私たちは職場や家、さらには自分の心のなかでさえ、それらの苦しい時間を受け入れようとしませんよね。本当にインパクトのある新しいアイディアを育てないなら、多くの仕事をする時間を減らしてみましょう。