世界が「抹茶」に熱狂するほど、日本の茶農家が消えていく理由

ソーシャス株式会社が主催する招待制サミット「Tech for Impact Summit 2026」にて、日本茶マーケットプレイス「Yunomi Life」が衝撃的な議論を展開しました。世界的な抹茶ブームの裏で、日本の茶産業が崩壊に向かっているというのです。

94%の茶農家が消えた現実

数字は残酷です。日本の茶農家は1985年の約20万2,000戸から、2020年にはわずか約1万2,000戸へ。一世代で約94%が姿を消しました。生産量もピーク時の約10万トンから約7万5,000トンへと縮小しています。

一方で、抹茶の需要は爆発的に伸びています。Yunomi Lifeによれば、同社の取扱構成比はたった1年で反転し、2024年には葉茶が約3分の2を占めていたものが、2025年には抹茶が約3分の2に。緑茶の輸出額は前年比で倍増し、政府が掲げた「2030年までに1,500億円」の目標がほぼ5年前倒しで達成されたとのことです。

これだけ聞けば朗報に思えます。しかし現実は真逆でした。

ブームが産地を「迂回」する構造

同セッションで指摘されたのは、ブームの恩恵が産地に届かないという構造的な問題です。

業界の倒産・廃業は数十年来の高水準にあるといいます。長年の国内市場縮小に対応するため融資を受けて事業転換を進めていた企業に、あまりに急激なブームが到来。帳簿上は黒字でも、既存の負債で資金繰りが回らなくなるケースが発生しているのです。

さらに深刻なのが、ペットボトル飲料メーカーが茶葉の約60%を最安等級で購入しているという実態。1キログラムあたりの価値が崩壊し、農家の収益を圧迫し続けています。抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)への設備転換には小規模施設でも約1億円が必要で、おいそれと踏み切れません。ブームをバブルと見て、あえて転換しない産地もあるそうです。

SNSが生んだ「マッチャ・ガール」現象は世界中のカフェに抹茶メニューを広げましたが、その需要を満たしているのは必ずしも日本産ではありません。中国は約200万トンの緑茶を生産しており、大規模工場ひとつで日本全体に匹敵する抹茶生産が可能だと指摘されています。碾茶でない粉末茶が「抹茶」として流通し、輸出される「抹茶粉末」の総量が実際の碾茶生産量を上回る可能性すらあるとのこと。

「外から内へ」の価値還流

こうした状況のなかで興味深いのが、Yunomi Life自身の戦略転換です。「農家を世界に見える存在にする」という当初の使命を果たした同社は、次のステップとして日本国内の消費者を自国の茶文化と再び結びつけることに軸足を移し、東京にインバウンド観光客向けの実店舗カフェを計画しているといいます。

需要を「外」で掘り起こし、その熱量を「内」に還流させる。この発想は、ブームに翻弄される一次産業が持続可能性を取り戻すためのひとつのヒントになるのではないでしょうか。

私たちが手にする一杯の抹茶ラテの裏側で、産地の風景が静かに変わり続けています。「本物の抹茶とは何か」を問い直すことが、ブームを文化として根づかせる第一歩なのかもしれません。

Top image: © iStock.com / franz12
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。