粉もんを愛するがゆえに誕生した「たこ焼き」に合うスパークリングワイン
大阪のソウルフード「たこ焼き」に合わせるスパークリングワインがある。それが「たこシャン」だ。たこ焼き+シャンパン。これ、通称ではなく正式な商品名。いかにも関西人らしいネーミングセンスだが、その味わいは“ほんまもん”だった。
気取らず気軽に楽しめる“ほんまもん”スパークリング
昭和のはじめ、日本一のブドウ産地だった大阪。今も府南部の柏原地区には、多くのブドウ畑と100年以上続くワイン醸造所がある。そのひとつが、西日本最古のワイナリー「カタシモワイナリー」だ。明治時代に開拓された畑から、大阪発のワインをつくり続けている。
原料となるのは小粒で種無しのデラウェア。あれがワインに?と思われるのも当然。デラウェアはその独特の甘さに加え、「フォクシー・フレイバー(キツネ臭)」とワイン通が形容するほどに香りが強く、ワインには不向きと言われてきた。
ところがどうだろう。たこシャンは、きめの細かい気泡にやさしい果実香がある。たこ焼きに合うという評判通り、たしかにソースの酸味ともよく合い、パンチのあるたこ焼きのあの味に負けていない。それでいて、もったりした口の中をさわやかに洗い流してくれるのもちょうどいい。これがサワーでは甘みや酸味が勝ってしまい、ハイボールだと炭酸がキツすぎてこうはいかない。かといって、ビールではあまりに味気なさすぎる。
そこでこのスパークリング、という訳だ。地元柏原を代表するデラウェアをシャンパンと同じ製法で、1本1本瓶の中で気泡を発生させる瓶内二次発酵で仕上げていくそう。独特の甘さが嫌味なくスッキリ感じるのも、ワイン造り104年のノウハウを生かし「研究と工夫を重ねた」という、酵母菌、温度管理、果汁段階での前処理によるもの。
つまり、たこ焼き(あるいは他の粉もん)に合わせるべくして開発された、“ほんまもん”のスパークリングというわけ。なのに、まったく気取った感じがしないのもいい。
地元ブドウ農家の危機に技術とアイデアで立ち向かう
「地元のブドウを使って、カジュアルに楽しめるワインを飲むことで、大阪のブドウ農家を元気にしたい」。大阪人らしい遊び心あるネーミングの裏には、近隣農家が抱える大きな問題があった。
意外にも大阪府は、デラウェアの生産量で全国3位と一大産地。ところが近年高齢化が進み、耕作放棄地が増えていく現実に、現社長であり三代目の高井利洋さんは、地元特産のブドウでスパークリングワインを造り、活性化につなげようと決意。
まず最初に取り組んだのは、ワインに適し、高齢者でも無理のない栽培方法。それは、露地での種あり有機草生栽培だった。ビニールハウスや加温を止め、除草剤をやめた。すると土地の力が回復し、与える肥料の量も少なくて済むようになったそう。さらに、できるだけ油かすや牛糞、ブドウの絞りかすなど有機肥料へと変えていった。
果樹と雑草を共生させる。こう聞くと、イメージとして工数がぐんとかかりそうに思われるが、ワイナリーによればこの方法で実際に重労働だけでなく、農薬と化学肥料を同時に削減することとなり、結果的にオーガニックという副産物も手にいれることもできたそうだ。
「ワインは地域と共にあり」
口コミで広まり全国区へ
現在、ブドウは地元の5つの醸造所と農家とで協力し合い育てている。収穫期には近郊から400人を超えるボランティアが手弁当で集まり、たわわに実ったブドウを集める。その8割が女性だとか。
2010年たこしゃんがデビューした当初、ほぼ9割が関西圏のみの消費だったそうだが、噂は口コミで広まり、今や高級ホテルや百貨店担当者がこのスパークリングを求めるように。売り上げ本数は発売以来、6年間でおよそ35倍に増えたという。
「ワインは地域があってこその飲み物」と高井さん。地域に暮らす人々が自分たちの土地の魅力に気づく、そのためのワイン造りだと強調する。隣の人はみな友だち、関西の義理人情がたこシャンを全国区のブランドへと押し上げたのではないだろうか。
「ワインはその地域のひとつの香り。130年前に開墾した畑、河内の古民家群、ここに住んでいる人たちのおもろい河内弁。これを一緒に味わってもらえれば、ワインのストーリーが、飲む理由ができますよ」。
何はともあれ、未体験ならば味わってみるほかないでしょう!750mlで2,376円(税込)。たこ焼きに高級感が増す?いやいや、「カジュアルに楽しむ」それがたこシャンの身上だ。購入はこちらから、あの藤巻百貨店でもセレクトされている。