【どこでしょう?】今、旅するなら「水と太陽が日本一」の県がいい

水と太陽、と言っても別にキラキラ光る海と白い砂浜のリゾート地というわけではない。むしろその逆、「海がない場所」について、今回は紹介したい。

そこは、山梨県「峡北」と呼ばれる地域。初めてその名を聞いた、という人も多いのではないだろうか。甲府盆地の北西部、八ヶ岳を北に臨むこの地域は、日照時間とミネラルウォーターの生産量が日本一という場所。ここが、実は食欲の秋を堪能するのに相応しい隠れた名スポットなのだ。

豊富な水資源と太陽、メリハリのついた気候が育んだ高原野菜をふんだんに使った「食」が峡北地域最大の魅力。それを堪能するなら、通りすがりではなく、じっくりと腰を据えて三食いただく、そんな旅をしたい。まずは一泊二日でこんなコースはどうだろう。

一日一組限定。200年の歴史が刻まれたジャパニーズ・オーベルジュで舌鼓の乱れ打ち

Photo by 小野寺榮一

「古守宿 一作(こもりや いっさく)」
山梨県北杜市小淵沢町松向215-1
0551-36-5858
完全予約制。チェックイン15:00 チェックアウト10:00

Photo by 小野寺榮一

築200年の古民家は、その佇まいに触れるだけでここへ来た喜びを味わわせてくれる。宿名には「古いものを守り、作物は一から作っておもてなしをする」という意味が込められているという。ここはその志をまっすぐに貫き続けている。それも極めてナチュラルに。運良く予約が取れた宿泊客は、「一日一組限定」の価値を存分に感じることだろう。

Photo by 小野寺榮一

宿に到着したら、まずひと風呂。八ヶ岳の雄大な景色を眺められる湯屋で浸かるお風呂は、湧き水を薪で沸かしたもの。これもまたある意味で「ご馳走」だ。

そしていよいよお待ちかねの食事。使われるすべての食材は自家製。野菜はもちろん、醤油や味噌などの調味料、米、納豆に至るまで手作りなのには驚かされる。囲炉裏にかけた鉄鍋で作る山梨名物の「ほうとう」や手打ちの蕎麦は言うまでもなく絶品。冬場は鹿や猪肉を使ったここでしか味わえないジビエを味わう事もできる。

Photo by 小野寺榮一
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Photo by 小野寺榮一
Photo by 小野寺榮一
Photo by 小野寺榮一

朝食もまた品数の多さ、漬物の種類の豊富さに圧倒されつつも、お腹も心も満ち足りた気分で宿を後にすることができる。この場所への再訪を誓いつつ。

地元の野菜を堪能できる、「メニューのない」ギャラリーランチ

Gallery Trax(ギャラリー トラックス)
山梨県北杜市高根町五町田1245
080−5028−4915
ランチは前日までの要予約。営業時間は金土日月曜日11:00-17:00


ここはいわゆる一般的なレストランやカフェではない。古材や廃材を使った家具や数々の店舗を設計してきたデザイナー、故・木村二郎氏の作ったアートギャラリーだ。2004年に木村氏が亡くなった後、パートナーの三好悦子さんがその遺志を引き継いで、今もなお、木村氏を慕ってここへ集まるクリエイターやアーティストたちの発信基地となっている。

ギャラリーでありながら、前もって予約すれば他では味わえないランチをいただくことができる。料理の腕を振るうのは、食べることが大好きだという悦子さん自身だ。メニューは、ない。オーダーが入れば、その時の旬やお客さんのことを考えながら、悦子さんが決める。

仕入れる野菜は、「地元で」なんていう表現では物足りない。知り合いの農家からだけでなく、愛犬テッちゃんの散歩の途中で摘むクレソン、隣のお寺になっているイチジク、まさにピンポイントで「ここでしか味わえない」素材に溢れている。

水と太陽に育まれた力強い素材と悦子さんの腕、心、ギャラリーの空間、そしてその全体を包んで流れる時間が、ここのランチを唯一無二のものにしているのだ。

「最近では他にも美味しいところがたくさんあるから」そう悦子さんに促されても、「あなたの料理が食べたい」と言って遠方から通いつめるお客さんも後を絶たない。

ここは食事をするだけの場所では、もちろんない。もともと保育園だった建物を活かしたギャラリーには、無口だったという木村氏のメッセージがいたるところで主張している。周辺の土地で出土するという縄文土器、壁のいたずら書き、そして個性の塊のような家具の数々。雄大な八ヶ岳の自然に抱かれながら、それらをゆるりと眺めて過ごす午後の時間は、都会では口にすれどもなかなか体現できないリアルなスローライフを感じさせてくれる。

ギャラリーの外壁には「STANDARDS(これが普通なんだよ)」という木村氏のメッセージが刻み込まれていた。

お土産にも「水と太陽の恵み」を

せっかく峡北に足を運んだなら、お土産にもこの土地ならではの素材が活かされたものを選びたい。

七賢
山梨県北杜市台ヶ原2283
0551-35-2236
営業時間9:00-17:00

例えば、「水」の恵みを存分に味わえる日本酒はどうだろう。

北杜市白州は台ヶ原、甲州街道沿いの宿場町で300年間酒を作り続けてきた『七賢・山梨銘醸』は、甲斐駒ヶ岳を源流とする尾白川の清冽な水を仕込み水に使った日本酒が有名。

平成26年に全国新酒鑑評会で金賞を受賞した「大吟醸 七賢 中屋伊兵衛」をはじめ、スパークリング日本酒、ブルーのラベルが美しい生酒など、バラエティ豊かな日本酒を、じっくり利き酒しながら選ぶことができる(利き酒は2杯目から有料)。ノンアルコールの甘酒や酢などの調味料もあるので、お酒を嗜まない人へのお土産にもおすすめ。買い物だけでなく、歴史的な木造建築を眺めるもよし、酒蔵見学を申し込んで造り酒屋のこだわりを聞くもよし。お土産を買う以上の体験を味わうことができる。

酒蔵の隣に建つ七賢直営のレストラン『臺民(だいみん)』に、買ったお酒を持ち込みつつ、旬の素材を活かした料理に合わせるという楽しみ方もここならでは。


 

金精軒
山梨県北杜市白州町台ヶ原2211
0551-35-2246
営業時間9:00-18:00 木曜日定休

七賢のはす向かいには、信玄餅の名店『金精軒』がある。夏季限定で販売される「水信玄餅」が話題になった、こちらも創業明治35年の老舗だ。水信玄餅は残念ながらこの時期食べることができないが、金精軒が誇るもう一つの銘菓が「極上生信玄餅」だ。

この信玄餅は地元で収穫された梨北米100%で作られている。米の甘みを活かすため、砂糖は従来品の半分だけ。口に入れた時の弾力が、まさに「生」を感じさせてくれる。もちろん、きな粉、黒蜜との相性は抜群だ。大量生産はしない限定販売ゆえに、日持ちは3日間。足は早いが、この希少性は大切な人への心のこもったお土産にぴったりだろう。

 

山梨県の中でも、取り分け大地の力強さを感じさせてくれる峡北地域。一度足を運んでみてもらいたい。