決断したのは16歳。お茶に人生を捧げた理由
無肥料・無農薬のお茶づくりを営む健一自然農園。代表の伊川健一さんは、16歳のときに人生の道を決めたといいます。茶畑を受け継ぎ、地域の人々と栽培・加工に励み、近年は各地の耕作放棄地をお茶づくりで解決する構想も具現化しています。
「Think Globally, Act Locally」を実践する伊川さんの生き方、地域とお茶の可能性について、茶畑が青々と茂る奈良の山奥で、お話をお聞きしました。
まず前編となる今回は、伊川さんのお茶づくりへのこだわりや、主力商品である三年番茶の効能とは?
お茶づくりに適した農地
「奈良・大和高原」
古くからお茶づくりが行われてきた奈良県北東部、大和高原。標高200〜600メートルの地形は寒暖差があり、お茶作りに適した条件が揃っているこの地で「健一自然農園」のお茶は栽培されています。
お茶の生産は野菜よりも農薬が使われている、とも言われますが、伊川さんのお茶はすべて無肥料・無農薬。
煎茶や番茶を始め、近年主力商品となっている三年晩茶など、高い支持を集める健一自然農園のお茶は、全国の店舗や首都圏のアパレルショップなどでも取り扱いされています。
お茶の生産にとどまらず、高齢者の雇用、耕作放棄地の課題解決、生態系の保全など、多様なアイデアを形にしている伊川さん。地元では「健ちゃん」の愛称で親しまれ、人一倍お茶作りに情熱を燃やしています。
まずは、お茶を加工する茶工場を案内してくれました。
お茶づくりの一番の命は
「茶葉の香り」
健一自然農園が摘みたての生茶を加工する2つの工場のうち、原料となる蒸製の荒茶を作る工場を訪れると、朝摘みたての茶葉がどっさりとコンテナに積まれていました。
伊川さん
「朝摘んだ生茶は基本的にその日のうちに荒茶にします。まず、乾燥した後に蒸すことで、発酵と酸化を止めます。それから乾燥後、熱を加えながら揉み込み、ほぐして最後にまた乾燥させつつ茶葉の形を整え、荒茶が完成します。今は全て自動機械化が主流ですが、うちでは40年ほど前の機械を使って、職人さんが直接確かめながら作る製法で加工しています。奥の機械を動かしているのが、茶業60年というベテランの山口さん」
山口さん
「お茶の一番の生命はね、”香り”なんだよ。茶葉の香りや質感を確かめながら、機械の速度や重さを微妙に調整して荒茶を作り上げていくんだよ」
そう話す山口さんとともに、荒茶づくりを担うのが、中川さん。お茶づくりに携わり8年だといいます。
中川さん
「山口さんの手の平を見てみてよ、全然違うから。山口さんの手の感触で茶葉の質感を細かく見極めることで、品質の高いお茶ができるんだよ。毎年茶畑の栽培にも関わっているけど、お茶づくりは奥深くて魅力があるね」
代々受け継がれてきた技法を継承し、職人の匠の技にもこだわることが、健一自然農園のお茶の品質につながっています。
見直される
「お茶」の魅力
伊川さんが用意してくれた、できたての荒茶を急須に入れてできたお茶を飲んで見ると、普段飲むお茶とはまるで違う、まろやかさと、芳醇な香りと味わいが口に広がっていきます。
伊川さん
「小学生がお茶づくりの見学に来たとき『急須でお茶を飲んでいますか?』と質問するんです。そうすると手を挙げるのは1学年で2〜3人くらい。家に急須がない家庭も多いんです。最近の子供は、お茶というとペットボトルしか知らなかったりしますよ」
そんななか、近年、健一自然農園の主力商品となっている三年晩茶は、身体を温める飲み物としてマクロビオティックなどでも注目されています。
伊川さん
「どこの飲食店やスーパーでも、コーヒーや抹茶ドリンク、ジュースなど身体を冷やす飲み物が90%なんです。身体の冷えは、女性の不妊や冷え性にもつながっていて、身体を温めることが健康に良いとされています。三年晩茶は、3年以上伸ばし続けたお茶の茎を冬に剪定し刻んだもの。根菜など冬の野菜は身体を温めると言われていますが、茎も同じです。さらに、赤い炎の薪で焙煎をします。陽性の食品が生まれる冬の季節に、陽性の部位を、陽性の手法で加工をするので、三年晩茶は心と身体を芯から温めます。売り上げは、ここ2~3年で緑茶を追い越しています」
ひとくちにお茶といっても、煎茶や抹茶は身体を冷やす陰性。春から秋に摘まれる番茶や三年晩茶は身体を温める陽性。自然の法則が、私たちの身体にも影響しているのです。
前編はここまで ——。
中編では、健一自然農園が栽培・管理している畑に移動し、実際のお茶づくりや農園の方針などのお話を伺います。