花火大会が苦手だった私が、お台場で泣きそうになった日。

数年前に転職してからずっと都内に住んでいる。地元の親友ミホとは「遊ぼう遊ぼう」といつも言ってはいたけれど、帰省するタイミングが合わなかったり、どこか中間地点で会うことを計画しても、急な仕事が舞い込んできたりして会えずにいた。

そんなとき「都会って怖いでしょ?」と今まで冗談を言っていたミホが、初めて「東京に遊びに行きたい」と言ってくれた。嬉しい半面、久しぶりの再会だから少しドキドキ。行きたい場所を考えておいてもらうように伝えておいたら、彼女が持ってきたのは花火大会のチケット。

正直、私は花火大会が苦手。しかもお台場で開催なんて、すごい人混みになりそうだし、あまり気分がのらないなぁ。

でもせっかく遠くから来てくれたし、しょうがないか…。

16:00
お台場海浜公園についた。

イベント会場に着くと、入り口にはたくさんの人がいた。東京に着いてからずっと私の斜め後ろを歩いていたミホが率先して前へ進んだ。私は黙って列の後ろに並ぶ。

「せっかくの休みなのにごめんね。SNSで見て楽しみにしてたんだ」

ミホは、周りをキョロキョロ見渡す私を見てそう言った。渋々ついてきていたのがお見通しなのか、少し申し訳なさそう。

「ううん、私も楽しみにしてたから」

まるで自分にも言い聞かせるように答えた。とはいえ蒸し暑いし、人は多い。列に並んで少ししてから前の人が動き出す。砂浜の上に敷くシートとパンフレットを受け取って中に入った。

音楽がガンガン流れている。雑誌に出てくるような可愛いDJが入口付近でまわしているのを見て、ミホには悪いけれど「やっぱ来るとこ間違えたかも…」と思ってしまった。

「わぁ!」

突然ミホが声をあげた。見ると目の前におかしなペイントをした男の人が満面の笑みでこっちを見ている。

内心「ビックリした〜」と思っていた私は「そうだね」と笑顔で返すことしかできない。

まだどこか、会場の雰囲気に慣れない。

会場は広くて、砂浜で花火を観覧するエリアはいくつかのブロックに分かれていた。やっと見つけた自分たちのブロックに入るとき「MCの指示があるまで、開けずにお持ちください」とリストバンドを渡された。

ミホは待ちきれず、その場で袋から出して手首につける。「え、開けていいの?」と聞く私に、「大丈夫だよ、透明のセロハンさえ抜かなければ」とまったく気にしていない様子。

ビーチの上に、入り口で手渡されたシートを敷いてカバンを下ろしたあと、食べ物とドリンクを買いに行くことにした。

「ピザも唐揚げもあるよ〜!どれにしようか?」

ミホはさっそく目移りしていた。

「チーズフォンデュとかホットチョコレートなんてあるんだぁ。さすが都会!」

私は「そうかな?」と笑いながら、目の前の人が持っていたかき氷が気になってしまった。

そういえば、女友達同士で来ている人やカップルが多めだけど、家族連れもチラホラ。意外に子どももたくさん。

勝手に、若い人しか来ないイベントだっていう先入観があったけど、少しずつ楽しむ余裕が出てきたかも…。気がついたら、周りにいる人たちもみんな楽しそう。

18:30
まんまるの夕日が沈んでいく

「いいな〜、こんなきれいな景色、いつも見れるんだ」
「いつもじゃないよ。お台場来るのも久しぶりだし」
「そっか」

レインボーブリッジの後ろに沈んでいく夕日で、いつの間にか辺りがオレンジ色に染まっている。こうして2人で並んで話すのは、何年ぶりだろう。昔はよく彼氏のこと、受験のこと、親とケンカしたこと、就活のこと、初めての職場での人間関係、何でも話し合っていた。

でも、お互い自分の道に進むにつれて離れていった。思い返してみると、「あっ、これミホに話したい」「あの子だったら私の気持ちを理解してくれるはず」と思ったことがあったのに、気軽に連絡をするのをためらったそのときが始まりだったのだと、今になって思う。

19:30
ショーのアナウンスが始まる

リストバンドのセロハン部分を抜くよう、会場内に放送が流れた。みんながそれに従うと、一斉に光って周りから「わぁ」っと歓声が上がる。

そのあと会場に響いたのは、波の音。

ショーの始まりを告げるアナウンスが流れると、宇宙空間にいるような不思議な気分になるゴウゴウとした音が鳴りだした。誰かが無線で交信するような雑音が混じり、雰囲気はだんだんお台場じゃない、どこか違う世界へと移っていく。

光の玉を夜空に掲げた女性が、私たちの目の前に出てきた。

「始まるね!」

興奮気味にミホが言う。

その瞬間、水の中からものすごい勢いで人が飛び出した。足から噴射する水と一緒に光が、パフォーマーの動きに合わせて水面にクルクルと円を描いていく。

音楽が鳴り響いて、花火が始まる。

「うわっ、すご…」

思わず口からこぼれた言葉。

鳥の鳴き声やキラキラとした音が鳴りはじめる。着けているリストバンドは黄色やピンクや青に点滅し、空にはまるで花が咲いたかのような花火が、音楽に合わせて打ち上がる。

「ショーは春夏秋冬で分かれてるみたいだから、今は『春』だね」

詳しく調べていたミホが説明してくれた。

ショーが始まって30分ほど経ったとき、The Black Eyed Peasの『I Gotta Feeling』が流れはじめた。

「あっ、この曲覚えてる? 昔カラオケで歌ったよね」

ミホは笑って頷いた。サビに合わせて花火が、絶妙なタイミングでバンバン打ち上がっていく。

「こんなの見たことない」

ミホが隣で感動していた。その想いは、私も同じだった。気づいたら自分も周りの人もショーに魅了されていた。花火は目で見て楽しむものだとばかり思っていたけど、耳でも楽しむことができるんだと知ったのは、この時が初めてだった。

そのあとも、火がついた棒をブンブン回すファイヤーパフォーマンスや、光と影を使ったシャドーパフォーマンスがあって、これはもう私が知っている花火大会じゃなかった。

太鼓の音が混じった音楽が流れたときは、昔ミホと一緒に行った地元のお祭りを思い出した。商店街を歩いて、他の同級生たちと合流して、川辺で花火を見て、最後はいつも「また来年も一緒に来ようね」って約束していた。

時間が経つにつれて、ショーのエンディングが近づいていることも寂しかった。最後にはパフォーマーたちが全員出てきて、誰が聞いても「もう終わりだ」とわかるくらいの花火が一斉に打ち上げられた。

「今日、来て良かったね」

私は今、心の底からそう思っている。ミホも横で嬉しそうに頷いた。

「また来たいね」
「うん、東京にもいつでも遊びにおいで」

ショーの終わりと同時に、親友と行ける約束の場所がまたひとつ増えた気がした。

未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」
【公式URL】 http://www.star-island.jp/

Photo by Koki Yamasaki(TABI LABO)
Text by Seika Takeshima(TABI LABO)
Licensed material used with permission by STAR ISLAND, (Facebook), (Instagram), (Twitter)
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。