『クレイジージャーニー』出演者が語る、むき出しのスラム街・ファベーラ

ファベーラには町内会のような懐かしさがある(伊藤)

丸山

あ、そういえば僕、ブラジルの刑務所に取材行こうとして、申請出したら判事のOKが出なくて、全部ひっくり返ってなしになったことがあるんです。悔しいからとりあえず行くだけ行ってみようと面会の列に並んで、その場で交渉できないかとトライしたんです。結局ダメだったんだけど、並んでいるとき、とあることに気がついたんです。女性がみな超薄着でセクシーな格好で並んでいる。旦那とか、彼氏に会いに行くからなんでしょうね。そこが日本とか他の刑務所と全然違うなって。

伊藤

口紅塗って、赤いハイヒール履いてね。

丸山

すごいがっつり胸元開けてて、ああノーブラだなと思って見てたんです。一人や二人じゃないんです。結構な比率でいる。聞けば、刑務所内で一応メークラブできる、やれる部屋というものがあるらしいんです。

伊藤

あるんだ!?お金払えば。まあ、それもホマンチコだよね。

丸山

話としてはロマンチック。だからそういうので、女の人たちもおしゃれしていくみたいなんです。

こういう女の子たちにカメラを向けると、さらっと踊ってくれたり感じもいいですよね?拒否されないというか。

伊藤

そうだね。やっぱり基本、撮られるの好きだよね。明るいし。

©DAISUKE ITO

ビーチには貧富の差関係なく、さまざまな人が集まる
(伊藤大輔写真集『ROMÂNTICO』より)

丸山

僕の後輩で、細身の売れない芥川龍之介みたいな顔した奴が取材でリオのビーチを歩いていたら、向こうから女の子がきて「あなた日本人?」って聞かれて「そうだよって」応えたんです。そうしたら「私、日本人とキスしたことがないから、ちよっといい?」って。その場でチュッとキスされたらしいんです。なんかそういうミラクルが起きる国がブラジルなんだなって。おもしろいなあ。

伊藤

まあね。昼間は海行って、夜は女の子の口説き方自慢して。それなりにみんな楽しんでますよ。でも、そればかりじゃない。ファベーラに住む人間はね、やっぱりみんなどこかたくましい。一人一人、人生のドラマがある。「俺は田舎から出てきて、そこの林を切り開いてやった」とかさ。基本そういう強い人しか残ってないんだと思う。

丸山

そうなんですよね。ブラジルはね、本当に遺伝子強いと思いますよ。弱い人だとどんどん淘汰されますからね。筋肉パキパキでしなやかな奴が多い。絶対ケンカなんかしたくない。

伊藤

そのくせ結構マザコンでね。ラテン系はマザコンが多い。夜9時くらいで「ママが心配してるから」って言って帰ってくんですから。いい年になっても家を出ていかなくていいもんだから、ママのご飯食べて、結構幸せなんだよ。海もあるし、辛そうに見えて楽しくやってんだよね。

親と友だち、こういうコミュニティがなんかすごいいいなと思った。俺がガキのころってまだ町内会とかあったしさ。なんか、そういう昔の日本に戻ったような感覚?すごい居心地いいコミュニティだったんだよね。

丸山

(再びファベーラの映像を観ながら)
近所の夏祭り開催直前の集会所みたいな雰囲気がいっぱい残ってますよね。みんな酒持ってきて、地元のサッカーチームの応援をする感じとか。

伊藤

やっぱほら、単純なんだよ。だから欲望のはけ口もストレートで。でも、それだけで割り切れないところもあるよ、いくらでも。本音を言わないとかもあるしね。やっぱりお金のこととか絡むととくにね。まあ、同じスラムで同じ土俵に立って生活していたって、お金となるとシビアだよね。

でも、基本気持ちいい奴らですよ。日曜日の午後とかに、みんなで集まってビール飲んで、ああでもねえこうでもねえくっちゃべって、肉焼いて、なんか楽しくやってるんですよ。

丸山

ファベーラに暮らす人たちはスタジアムにはいかないんですか?

伊藤

結構入場料高いしね。ファベーラは階段ばっかりだからみんな出不精なんだよ。家でビール片手に肉焼いてテレビで観戦。ラクだし楽しい。で、贔屓のチームが勝てば外に出てチャントの大合唱。

丸山

めっちゃカメラ近っ!

伊藤

でしょう?俺はこういう距離感が気持ちよくて。なかなかスラム街で、こういう距離感では話してくれないと思うよ。

丸山

これを観ると「伊藤さん、ちょっとヤベー人だな」と思います。

伊藤

いやいや。

丸山

僕、あの番組の伊藤さんの回で記憶に残っているのが「お前、アキレス腱伸ばしとけよ!」っていう。あのシーンがすごい好きなんですよね。体育会だなあと思った。でもなんか、ここにいたらそういう感じわかりますよ。「いつ走るかわかんねえぞ」みたいな。

伊藤

伝える内容もまたぜんぜん違うしさ。俺たまに急に真逆のことやりたくなるんだよね、こういう。これを記録しておいてやっぱりよかったなって最近思うもん。でも、このときは悩んだの。「自分が撮りたい場面の写真、撮れねえじゃん」みたいな。結局、相手も気を悪くすると、撮らしてくれないわけだ。それでずっとフラストレーションがたまってて。

そんなとき、動画だったら、自分の友だちなら撮らしてくれる。じゃあもうありのままを撮ろうって。なんか絵がキレイだとか、そんなの一切抜きでさ。

丸山

そこはやっぱり伊藤さんのこだわりでもあるから、撮れなかったら悔しいわけじゃないですか。撮りたいところはきわどいし、危険と隣り合わせだったりもする。

伊藤

仮に俺がライターだったら、銃撃戦を抑揚つけて書いたりできると思うんだよね。でも俺、やっぱり写真家だから。辛かろうが、なんだろうがやっぱり写真に残してナンボだからさ。いちばん絵になる強いシーンが撮れなかったりしてるんだよね。だから、少なくとも動画で撮ろう、とね。まあさ、自己満足なんだけどね。

丸山

いいなあ、そういう感じ。いいですねえ、やっぱり。写真を見れば迫っているのわかるけど、動画でもそれが伝わってきますもん。町の人たちのこういう日常が、本当におもしろい。だからファベーラっておもしろいんですよね。日常のひとつひとつが本当にドラマチックだから。本当に「ロマンチコ」なんですよね。

伊藤

「ホマンチコ」ね。

でも、そういうことなんだと思う。やっぱり、エネルギーってことなのかもしれないね、簡単に言ったら。

Top image: © DAISUKE ITO
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。